猫のモモタ

緒方宗谷

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弱さを知って強くなれたオオタカのキキ

運命が自分を作る

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 昼間だというのに、空は黒雲におおわれていて、まるで夜のようでした。大きな台風が、キキの住む森に、刻一刻と迫っていたのです。 
 強風が吹き荒む中、キキは、熊のお家のある木の枝の上で横たわっていました。
 自分は強いオオタカなのだから、今にでも飛べるはずだ。そう思うものの傷がいえていないので、飛べるはずがありません。
 弱々しく開いた瞳は弱々しくなって、金色の輝きがなくなっていました。キキは焦っていました。同じ年頃の鳥たちは、既に巣立っていることでしょう。
 自分も早く飛び立たねば、と思うキキでしたが、力が出ません。怪我をしていますし、ご飯も食べていなかったからです。
 少し離れた木の陰を見やると、自分を食べようと虎視眈々と狙うタヌキが見えます。
 食べられる側になる怖さが身にしみますが、命乞いはできません。なんせ空の王者なのですから。そんな事をすれば、カラスたちに笑われてしまいます。
 そろそろキキが飛び立つ頃だ、と思ったモモタが、抜き足差し足忍び足で熊のお家にやってきました。
 キキを見てびっくり、死にかけています。
 「どうしたの?大丈夫?」
 「ああ、モモタか。何ともないよ」
 「何ともないわけないじゃない、こんなにやせ細って」
 キキは、お母さんにもお父さんにも探してもらえていなかったのです。2羽ともキキは飛び立った、と思っていたからです。
 木の根元には熊がいますし、少し離れたところにはタヌキがいます。夜明けから日没までタヌキに見張られていたので、キキはこの木を離れる事ができないのでした。そのため、ずっとご飯を食べることができずに、痩せ衰えてしまったのです。
 看病しようと木に登ったモモタが、お腹を空かせていることに気が付いて、何か食べる物を取りに行こうとしました。ですが、そこに熊が戻ってきました。今下りれば、熊にごはんにされてしまいます。モモタまで下りられなくなってしまいました。
 朝から強かった風は、さらに強くなっていきます。台風がやってきたのです。横殴りの強風と大粒の雨がモモタたちを襲います。しばらくの間、モモタは絶えていましたが、限界です。
 でも、モモタは、辛いからといって悲しみませんでした。熊は台風が去るまでお家から出てこないでしょう。タヌキだって身動きできないはずです。出来たとしても、木の上までやっては来れません。
 モモタは、どうせもうビショビショなのだから、これからビショビショになったって今と変わらない、と思いました。
 そこで、「えいっ」と枝から飛び降りて、飛ばされてしまいそうな大嵐の中、山から下りていきました。
 それをもうろうとする意識で見ていたキキは、思いました。
 (僕は空の王者だから、誰にも頼らなくても大丈夫さ。
  弱い猫は、こういう時にその弱さが出るから、信用できないな。
  嵐さえ収まれば、僕は大空へ飛んで行く事が出来るんだ)
 モモタは、心も体も限界でした。それが耐えられなくて、木から飛び降りました。何もできなくて耐えられなかったのではありません。何もしないことに耐えられなかったのです。
 ですがキキは、モモタは弱いから逃げたのだ、僕は強いから逃げないのだ、と思いました。


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