猫のモモタ

緒方宗谷

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弱さを知って強くなれたオオタカのキキ

勇気と弱虫は紙一重

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 オオタカのキキは思いました。
 (どうしてこんなことになったのだろう。本当なら、今頃は大空を飛び回って、羽で風を切っていたのに)と。
 まさか、飛べない猫に見下ろされているなんて、夢にも思いませんでした。
 キキの傷口からタヌキの匂いがしたので、モモタはすぐに事情を察して訊きました。
 「タヌキさんに襲われたの?騙されたんでしょ?」
 そっぽを向いたキキは言います。
 「騙されてなんかいないよ」
 それは本心でした。本当は、「もう飛べる」とか、「他の鳥の子供たちは飛び立った」とか嘘をつかれていたのですが、キキは、タヌキに褒めそやされているのがとても気持ち良かったので、タヌキが初めから自分を食べる気でいたなんて、思いもよらなかったのです。
 この森は弱肉強食。食うか食われるかです。自分が上手く飛べなかったから、自分はタヌキに食べられそうになった、と思いました。
 ちゃんと飛べていれば、食べられるのは、あの子タヌキの方です。実際に食べるかは別にして、対等の関係でいられたはずです。ですから、悪いのは自分の方だ、と考えました。
 タヌキが走ってやって来るのに気が付いたモモタは、木の陰にキキを隠しました。
 「あれ?タヌキさん、そんなに急いでどうしたの?」
 「やあ、モモタさん、お友達のオオタカのキキが迷子になっちゃって、探していたのです」
 「オオタカ?さっき、むこうにスィー、と飛んで行ったよ」
 やって来たタヌキに、モモタは嘘を教えました。教えた方角は、オオタカの巣がある方なので、巣に逃げて行ったと思わせようとしたのです。
 タヌキは騙されてむこうに走って行ったので、モモタはオオタカに逆の方向に逃げるように言いました。
 ですが、タヌキの方が1枚も2枚も上手です。モモタが嘘をついている、と見抜いていたタヌキは、風下に隠れて見ていました。
 木の陰からキキが出てきたのを見るや否や、タヌキがすかさず出てきて、キキに向かって走ってきました。
 「やあ、キキさん、そこにいたんですね、探しましたよ、心配していたんです」
 キキは、モモタの鼻が示す方には飛びませんでした。
モモタに、そっちはダメだよ、と止める暇も与えずに、キキは木々の向こうに消えていきます。
 あっちの方には熊のねぐらがある、とモモタから聞いたキキは、自分が勇敢なオオタカだとモモタに知らせるために、敢えて熊のねぐらの方に飛んだのでした。
 大きな杉の木が見えました。根元には空洞が開いています。中に熊がいるはずです。
 穴ぐらの前に落ちたキキは、後ろを振り返りました。タヌキがやって来るのを確認してから、ぴょこぴょこ穴ぐらに入っていって、熊を突いてつねって無理やり起こします。
 「いてて、なんだ?誰だ?俺を起こすのは!!痛いじゃないか!!」
 熊が起きると、キキは急いで外へ出て、穴ぐらの上へよじ登っていきます。出てきた熊は叫びました。
 「お前か!?お前が俺にイタズラしたのか!?」
 外へ出てきた熊に遭遇したタヌキは一転、追いかけまわされて逃げていきます。無理やり起こされて機嫌の悪い熊は、いつまでもタヌキを追い続けます。
 熊が怖くて、抜き足差し足忍び足でやって来たモモタに、熊のお家のある杉の木の太い枝の上から、キキが言いました。
 「モモタのおかげで、兄弟全部食べられずに済んだよ、ありがとう」
 「でも、その木の枝から下りられないね、下にいる熊に食べられちゃうもの。
  ムリして飛ばない方が良いよ、我慢して我慢して、十分大きくなってから「やぁっ」てしたら、みんなより高く飛べると思うよ」
 そう言われたオオタカは、残っていたふわふわ羽毛が完全に生え変わって、優しい茶色になるまで待つことにしました。




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