猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
152 / 505
弱さを知って強くなれたオオタカのキキ

勇気と弱虫は紙一重

しおりを挟む
 オオタカのキキは思いました。
 (どうしてこんなことになったのだろう。本当なら、今頃は大空を飛び回って、羽で風を切っていたのに)と。
 まさか、飛べない猫に見下ろされているなんて、夢にも思いませんでした。
 キキの傷口からタヌキの匂いがしたので、モモタはすぐに事情を察して訊きました。
 「タヌキさんに襲われたの?騙されたんでしょ?」
 そっぽを向いたキキは言います。
 「騙されてなんかいないよ」
 それは本心でした。本当は、「もう飛べる」とか、「他の鳥の子供たちは飛び立った」とか嘘をつかれていたのですが、キキは、タヌキに褒めそやされているのがとても気持ち良かったので、タヌキが初めから自分を食べる気でいたなんて、思いもよらなかったのです。
 この森は弱肉強食。食うか食われるかです。自分が上手く飛べなかったから、自分はタヌキに食べられそうになった、と思いました。
 ちゃんと飛べていれば、食べられるのは、あの子タヌキの方です。実際に食べるかは別にして、対等の関係でいられたはずです。ですから、悪いのは自分の方だ、と考えました。
 タヌキが走ってやって来るのに気が付いたモモタは、木の陰にキキを隠しました。
 「あれ?タヌキさん、そんなに急いでどうしたの?」
 「やあ、モモタさん、お友達のオオタカのキキが迷子になっちゃって、探していたのです」
 「オオタカ?さっき、むこうにスィー、と飛んで行ったよ」
 やって来たタヌキに、モモタは嘘を教えました。教えた方角は、オオタカの巣がある方なので、巣に逃げて行ったと思わせようとしたのです。
 タヌキは騙されてむこうに走って行ったので、モモタはオオタカに逆の方向に逃げるように言いました。
 ですが、タヌキの方が1枚も2枚も上手です。モモタが嘘をついている、と見抜いていたタヌキは、風下に隠れて見ていました。
 木の陰からキキが出てきたのを見るや否や、タヌキがすかさず出てきて、キキに向かって走ってきました。
 「やあ、キキさん、そこにいたんですね、探しましたよ、心配していたんです」
 キキは、モモタの鼻が示す方には飛びませんでした。
モモタに、そっちはダメだよ、と止める暇も与えずに、キキは木々の向こうに消えていきます。
 あっちの方には熊のねぐらがある、とモモタから聞いたキキは、自分が勇敢なオオタカだとモモタに知らせるために、敢えて熊のねぐらの方に飛んだのでした。
 大きな杉の木が見えました。根元には空洞が開いています。中に熊がいるはずです。
 穴ぐらの前に落ちたキキは、後ろを振り返りました。タヌキがやって来るのを確認してから、ぴょこぴょこ穴ぐらに入っていって、熊を突いてつねって無理やり起こします。
 「いてて、なんだ?誰だ?俺を起こすのは!!痛いじゃないか!!」
 熊が起きると、キキは急いで外へ出て、穴ぐらの上へよじ登っていきます。出てきた熊は叫びました。
 「お前か!?お前が俺にイタズラしたのか!?」
 外へ出てきた熊に遭遇したタヌキは一転、追いかけまわされて逃げていきます。無理やり起こされて機嫌の悪い熊は、いつまでもタヌキを追い続けます。
 熊が怖くて、抜き足差し足忍び足でやって来たモモタに、熊のお家のある杉の木の太い枝の上から、キキが言いました。
 「モモタのおかげで、兄弟全部食べられずに済んだよ、ありがとう」
 「でも、その木の枝から下りられないね、下にいる熊に食べられちゃうもの。
  ムリして飛ばない方が良いよ、我慢して我慢して、十分大きくなってから「やぁっ」てしたら、みんなより高く飛べると思うよ」
 そう言われたオオタカは、残っていたふわふわ羽毛が完全に生え変わって、優しい茶色になるまで待つことにしました。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

魔法アプリ【グリモワール】

阿賀野めいり
児童書・童話
◆異世界の力が交錯する町で、友情と成長が織りなす新たな魔法の物語◆ 小学5年生の咲来智也(さくらともや) は、【超常事件】が発生する町、【新都心:喜志間ニュータウン】で暮らしていた。夢の中で現れる不思議な青年や、年上の友人・春風颯(はるかぜはやて)との交流の中でその日々を過ごしていた。 ある夜、町を突如襲った異変──夜にもかかわらず、オフィス街が昼のように明るく輝く事件が発生する。その翌日、智也のスマートフォンに謎のアプリ【グリモワール】がインストールされていた。消そうとしても消えないアプリ。そして、智也は突然見たこともない大きな蛇に襲われる。そんな智也を救ったのは、春風颯だった。しかも彼の正体は【異世界】の住人で――。 アプリの力によって魔法使いとなった智也は、颯とともに、次々と発生する【超常事件】に挑む。しかし、これらの事件が次第に智也自身の運命を深く絡め取っていくことにまだ気づいていなかった――。 ※カクヨムでも連載しております※

はんぶんこ天使

いずみ
児童書・童話
少し内気でドジなところのある小学五年生の美優は、不思議な事件をきっかけに同級生の萌が天使だということを知ってしまう。でも彼女は、美優が想像していた天使とはちょっと違って・・・ 萌の仕事を手伝ううちに、いつの間にか美優にも人の持つ心の闇が見えるようになってしまった。さて美優は、大事な友達の闇を消すことができるのか? ※児童文学になります。小学校高学年から中学生向け。もちろん、過去にその年代だったあなたもOK!・・・えっと、低学年は・・・?

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

かわいいアヒルの子

天仕事屋(てしごとや)
児童書・童話
ある朝のこと  いくつもの卵から ヒナがかえっていきます

処理中です...