猫のモモタ

緒方宗谷

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真珠貝に成れなかったシャコ貝の話

昨日の自分にさよならを言おう

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 モモタは、帆立貝にハマグリのお話をしてあげました。
 「・・・だから、小さくて形の悪い真珠しか持っていないことが原因じゃないと思うよ。
  それを作り始めてから出来上がるまでの道のりが原因なんだ。
  真珠なんて作らなくたって、幸せにはなれるんだよ。
  思い返してみて。帆立貝さんが一生懸命真珠を作っていた時、そばにいてくれていた貝のことを。
  思い返してみて。ホタテのお友だちとみんなでホタテ泳ぎをして遊んだことを」
 一生懸命話しましたが、なぜか帆立貝の心に、モモタの声は届きません。
 「・・・。そもそも僕ホタテじゃないよ、シャコ貝だよ」
 「そうなの?」
 「みんな言うんだ。あなたホタテでしょう?ホタテのお家は向こうですよって。
  わたしたち真珠を作るしゃこ貝だから、ここにいるの間違いよって。
  大切なのは思い出だよ――だなんて、いろいろ持っているやつが言えることさ。
  真珠がないとその思い出も作ることが出来ないんだ」
 「そんなこと言わないで。ハマグリさんは、真珠なんて作らなくても奥さんや子供を想う気持ちを大切にすれば良かったって言っていたんだよ」
 「ハマグリは、ハマグリだから真珠なんて興味持たないよ。なのに興味を持ってしまったから不幸になったんだ。
   僕で言えば、白く輝く真珠を作る貝なのに、桃色真珠や黒色真珠に興味を持つようなものさ。
  僕は僕らしくない生き方なんてしなかった。でも僕は僕のままで生きてきたんだ。昔も今もずっと僕のまま」
 「それの何がいけないの?自分らしく生きられるなんて立派じゃない?」
 「自分らしくって何?自分らしく生きた結果が今の僕さ。
  僕はしゃこ貝らしくしゃこ貝で居れば良かったのに、しゃこ貝としても頑張らなかったんだ。
  自分らしくなんて生きちゃいけない。自分らしくない自分を目指して生きなきゃいけないよ。
  だって成長するってそういうことだろう?自分らしくなんて怠慢でしかない。
  ほらその証拠に、僕はしゃこ貝になれずにホタテモドキの貝生さ」
 モモタは考えました。自分らしいって何だろう?
 モモタはいつでも自分らしく生きてきたはずです。ですが、今のモモタは、赤ちゃんモモタとは違うモモタです。
 赤ちゃんの頃は、お家から出るのも怖がっていたモモタです。もしモモタがその時の赤ちゃんモモタらしく生きていたら、今でもお家の中にいたでしょう。
 モモタは、変わっていく流れの中にいる自分が自分らしいってことかな? と思いました。
 もしかしたら、その流れが流れる方向を見ることが自分らしいってことかもしれない、とも思いました。


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