猫のモモタ

緒方宗谷

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いつでもどこでも平常心のタヌキの話

好きは遠回り

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 ある日の朝、タヌキが珍しく山の麓に下りてきて、まだ寝ぼけ眼のモモタに話しかけてきました。
 「おはようございます、モモタさん」
 「おはよう、タヌキさんがここまで出てくるなんて、珍しいね」
 「実は、モモタさんに良いことを教えてあげようと思って、やって来たのです」
 モモタは、ドキッとしました。タヌキの言う良いことは、大抵良いことではないからです。モモタは、恐る恐る訊きました。
 「なーに?」
 「山の中腹にお屋敷があるのをご存知ですか?
  そのお屋敷に、とても珍しい熱帯魚がいるんです。とても綺麗なんですよ」
 熱帯魚なんて言葉初めて聞いたモモタは、興味津々。またタヌキにイタズラされるんじゃないかと思いながらも、ついて行ってみる事にしました。
 山には野生の動物たちがいっぱい住んでいて、それぞれなわばりを持っています。みんなは、自分の縄張りに他の動物が入るのを嫌がります。ですから、モモタは足を踏み入れたことのない場所がたくさんありました。
 ここは始めてくる場所なので、モモタはとても心細いです。
 「タヌキさん、どこまで行くの?」
 「もうすぐですよ、ほらあそこ。
  あのお屋敷の2階の窓があいているでしょう?
  モモタさん、君行って中に入ってくれませんか?」
 「知らない人のお家に入るの?」
 「珍しいお魚は、1階にいるのですよ。
  とてもほっそりしているのに、尾っぽが尊い感じで素敵なんです。
  私は、とても美しいので魅了されてしまったのです。
  またあの熱帯魚に会いたいんです。
  どうか協力していただけませんか?」
 モモタは一緒に眺めて楽しみたい、と思いました。
 「この時間は、ここの人はお買い物に行っていていないのです。
  いまの内に、閉め忘れた2階の窓から入って、1階の窓を開けてください。
  そうしたら僕でもお家に入れますから」
 モモタは、タヌキに頼まれた通りにしてあげました。
 お礼を言いながら中に入ってきたタヌキは、一目散にキッチンに行って冷蔵庫を開けると、中にあったハムをハムハム食べ始めました。
 「タヌキさん、僕をだましたの?」
 「騙してなんかいませんよ。
  ほらあちらのお部屋、赤くてとても綺麗な熱帯魚がいるでしょう?」
 タヌキに連れられてモモタが行ってみると、本当に綺麗なお魚が、大きくて四角い水槽の中に1匹住んでいました。
 レッドテールグッピーの女の子は言いました。
 「あらタヌキさん、また来てくれたのね。
  いっしょにいるあなたは、だーれ?」
 「僕モモタだよ」
 「グッピーちゃん、この子が猫だよ」
 「猫?うわぁ、本当にタヌキさんが言った通りの姿をしているのね、初めて見たわ」
 タヌキは、冷蔵庫や戸棚で美味しそうなのを探し出しては、熱帯魚のところにくえてやって来て、ムシャムシャしながら、最近山に咲いた綺麗なお花のことや、ふもとのお家で食べたワンちゃんごはんの事を聞かせてやりました。
 熱帯魚は楽しそうに聞いています。
 とても仲良くお話ししているので、彼らを2匹きりにしてあげようと思ったモモタは、冷蔵庫にあった厚切りベーコンをくわえて帰りました。
 「タヌキさん、あのグッピーちゃんに恋してるんだ。
  でも、お話しするときくらい、家探しするのやめればいいのに」
 モモタはおかしく思いながら、ぴょんぴょんスキップしながら帰りました。

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