猫のモモタ

緒方宗谷

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アリ

価値は意思の中に眠っている

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 ふだんそんなに人のいない家庭菜園に、たくさんの人だかりができています。モモタが見ると、何人かの人間が、スコップを持って土を掘っていました。
 何を掘っているんだろう、と思ったモモタは、そばに寄ってみてびっくりです。
 なんと、大黒アリの巣を掘り起こしていたのです。
 土の中には、たくさんの卵が混ざっています。おぎゃ~おぎゃ~、と鳴いている赤ちゃんもいました。
 アリたちは大パニック。同じ場所をぐるぐる回る者。右に行っては他のアリにぶつかって、左に行っては他のアリにぶつかって、結局その場で右往左往している者など、色々です。
 アリたちは叫んでいます。
 「大変だー!10年に1度の大人災だー!」
 人間たちは、スコップにアリの巣を乗せて、どこかへ向かいます。
 スコップには女王様がいたので、働きアリたちは人間に追いすがりました。
 連れて行かれた女王アリは、もしかしたら殺されてしまうかもしれない、と心配しています。
 女王アリは、スコップの上からみんなに叫びました。
 「みんなー、わたしの代わりに卵や赤ちゃんたちをよろしくねー。
  サナギはたまに抱っこしてあげてねー。
  新しい女王アリが育ったら、しっかり仕えるのよー」
 アリたちは、女王アリの言うことを聞きません。みんな女王様を追いかけ続けます。
 永遠の別れであるかのような悲劇が繰り広げられましたが、人間たちは、菜園の隅っこにあった小屋まで来ると、その置き基礎のわきに土を捨てました。
 女王アリは無事でした。何がどうしたのか分からないアリたちでしたが、女王アリだけは気が付きました。
 「みんな見て、ほらあそこ、シロアリのお家があるわ。ご馳走よ」
 この辺りに住む長老が、えっちらおっちら、とやって来て言いました。
 「おお、新しい女王アリが来なさったか」
 「あら、そこのおじいちゃん、教えてください。
  人間は、何故わたしをここに連れて気なのでしょう」
 「うむ、お前さんは選ばれたのじゃ。
  遠い昔、わしが住んでいた巣の女王様も、お前さん同様、ここに連れてこられたのじゃ」
 「この辺りは、とてもシロアリが多いんですね」
 「そうじゃ、ここは白アリの宝庫。ようこそアリの天国、アリの理想郷、アリの桃源郷へ」
 アリたちは喜びました。走って行って、柱に巣食うシロアリを食べ始めました。
 それを見た長老は慌てます。
 「これこれ、シロアリを荒らし過ぎるでない。荒らし過ぎると、天罰が下るぞ」
 モモタは不思議に思いました。
 「どう言うこと?」
 長老は、教えてくれました。
 「ワシがここに来たとき、わしも含めてみんなは、今のあやつらと同じように、喜んでシロアリを食べたのじゃ。
  だが、食べ終わってしばらくすると、急に雨が降って来て、みんなおだぶつコロリ。本当に天国に行ってしもうた」
 敵の敵は味方と言いますが、敵がいなくなれば、やっぱり敵は敵。ということが分からないモモタとアリたちでした。
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