猫のモモタ

緒方宗谷

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消極的な熊たちの話

食べる側が、食べられないとは限らない

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 鳥たちのさえずりが木霊します。
 風のそよぐ音、葉が擦れる音、そして川のせせらぎしか聞こえません。
 樹海と言うところは、とても不思議な世界でした。
 太く大きな木々は、まるで今にも歩き出しそうな姿をしています。
 雨が降ると、小さな川になって流れていくので、木の根元の土をさらって行ってしまうのです。
 ですから、根っこがむき出しになって、あたかもタコの足がうねっているように見えるのでした。
 最近、モモタには楽しみが出来ました。
 お気に入りのふかふか苔お布団に寝っころがって、大きなマスに思いをはせるのです。
 樹海の川には、流れが緩やかになる深みがありました。
 そこには、ヌシが住んでいます。
 モモタより大きなマスですから、もし捕まえることが出来たなら、モモタはお腹満腹いい気分になれるでしょう。
 時々、熊がごはんを探しにやってきますが、大きなマスには目もくれません。
 その度に、モモタは木に登って様子を伺いますが、どの熊も、お魚のしっぽが見えているのに知らんぷりです。
 モモタは、猫魚になって、捕まえられたら、と想像します。
 ある時、3頭の小熊を連れたママ熊がやってきました。
 ママ熊は、マスに気が付くや否や、マスに気付かれないように川辺から岩の上に登って行きます。
 モモタは、考えたなぁ、と思いました。
 そこから岩の下に爪をいれれば、魚が引っかかるんじゃないか、と熊が気付いたからです。
 小さなモモタでは、思いもよらない発想でした。
 ドボーン、と大きな水しぶきが上がります。
 ママ熊は川の中に落ちましたが、右の前足の爪には、モモタよりも大きいマスが引っ掛かっています。
 子供たちは大喜び。
 頑張ったかいがあったというものです。
 ママ熊は、3頭の小熊に、おやつを食べさせることが出来ました。
 大きな音を聞きつけて戻ってきた熊たちは、その光景を見て口々に言いました。
 「どうやってとったんだ?」
 「信じられないわ」
 不思議がるみんなに、捕るところを目撃していた熊が教えてあげました。
 するとみんなは言いました。
 「そんなやり方なら、捕れて当然だよ」
 「ホントホント、誰でもできることをして自慢されてもね」
 「気が付いていたら、私だって出来ましたよ」
 せっかく頑張って大きなお魚を捕ったのに、あんな風に言われて、モモタはママ熊が可愛そうになりました。
 すると、モモタの気持ちを察したのか、後ろから声をかけてきたお友達がいました。
 「結果だけ見て言うなよな。
  誰もやろうとしなかったし、思いつきもしなかったくせに」
 モモタが見やると斜め上に熊がいて、ビックリ仰天。青天の霹靂です。
 「きゃ~!助けて~!!」
 モモタは、一目散に逃げていきました。
 モモタは、たくさん熊がいるこの森に、なぜ遊びに来られていたのでしょうか。
 それは、お気に入りの木があって、その木の細い枝に登れば、熊が近寄ってこられないことを分かっていたからでした。
 ですが、1頭のクマは考えました。
 木の幹の上の方はまがっているのだから、モモタより上に登って下に手を伸ばせば、届くかもしれないぞ、と。
 後になって、その熊は思いました。
 “あ、あの猫がいた枝を根元から折ってやれば、下から捕まえられたかもしれないな”と。

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