猫のモモタ

緒方宗谷

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思い出を持たない大きなクモの話

最も大切なのは、アイディアでなく、物でもなく、それを表す事

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 最近、モモタは毎日綺麗なクモさんのお家を見に行きます。とても綺麗な彼女の巣は、いつも同じ形をしていて、美しくない日はありませんでした。
 「こんなに綺麗な模様の巣を1日で壊しちゃうなんて、もったいないな。
  いついつの巣が綺麗だったなとか思わないの?」
 「うふふ、思わないわね。
  だって私、毎日寸分違わぬ巣を作れる自信がありますから」
 「でも、この間、巣が大切だって言っていたでしょう?
  毎日捨てちゃうから、慣れちゃったの?」
 「しいて言うなれば、巣を作る技術かしら」
 「きじゅつ?」
 モモタは首をかしげます。
 「私は生まれた時から、毎日毎日巣を作る練習をしてきたのよ。
  それがとても楽しかったから、誰よりも努力して、たくさんいる兄妹たちの中で、一番上手に作れるようになったの。
  それでも、巣を作る楽しさも、もっと上手になりたいって情熱も消えなかったわ。
  そうしたら、向こうの林に住むクモの中で、一番上手になったのです」
 「どうして、こっちの林に来たの?」
 「去年クマが現れて、食べられそうになっちゃったのよ、だからお引越ししたのよ」
 モモタは同情しました。住みなれない林に来て、とても苦労していると思いました。
 それを聞いたクモは言いました。
 「苦労なんてしていないわ、だって私には巣を作る技術があるんですもの。
  この技術があるから、私はどこでだって暮らしていける自信があるわ」
 「すごいなぁ、僕にもそんなぎじゅつがあれば、自信が持てるのに」
 クモは笑って言いました。
 「あら、あなたにだってあるでしょう。
  あなたはとても高いところに飛び乗る事が出来るでしょう?すばしっこいネズミさんと駆けっこして勝てるでしょう?揺れるススキの穂もキャッチできるじゃない。
  私には無理だわ」
 「本当?僕の足ってそんなにすごい?」
 「すごいわよ、犬は塀に上れないでしょう?そんな後ろ足持っていないもの。
  蛇はネズミに追いつけないでしょう?そもそも足ないもの。
  キツネは口が追いつくまで、ネズミを捕まえられないわ、だってあなたみたいな前足持っていないもの」
 「おねーさんの言う通りだ。
  僕、そんな風に考えたこと無かったな」
 クモは最後に言いました。
 「自分では気が付いていない才能って結構あるのよ。
  あなたは、好きだと思える事を一生懸命楽しんできたから、知らず知らずのうちに技術が磨かれてきたのね。
  だから、こんなに遠くまで旅行に来れたし、来れたからこそ、更に成長するんでしょうね」
 モモタは言いました。
 「僕、可愛い子だから旅するの」


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