猫のモモタ

緒方宗谷

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強がりシャークの話

言わなくても良いこと、知らなくても良いこと

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 「モモタ、以前君に言われた通り、僕は友達が欲しかったんだ。
  でも、誰もお友達になってくれないんだよ」
 「牙が怖いもの、だからでしょう?」
 モモタの答えに、サメは首を振ります。
 「俺もそう思って、海底の岩を使って、牙を全部負ったんだよ。
  でも誰も友達にはなってくれなかった」
 「分かりあうために頑張ろうよ。
  他のお魚さん達も、サメさんのことを知れば、きっとお友達になってくれるよ
 サメは、やはり首を振りました。
 「逆なんだよ、モモタと友達になって気が付いたんだ。
  分かり合えないから、友達なんだよ」
 「どうして?僕は、サメさんが心優しいサメさんだって知ってるよ」
 モモタは、サメがとても傷ついていると思いました。
 「俺たちは一生分かり合えないよ。
  俺とモモタを隔てる境界線をどちらも越えられないから」
 「何があるの?」
 「心の壁さ。
  寄せてはかえすこの波が、俺たちの境界線だ。
  君と違って、俺と魚たちの間には、この境界線が無いんだよ。
  そのせいで、俺の口の動き、背びれの動き、胸びれの動き、尾ひれの動き、呼吸さえも伝わるんだ、そして、俺にも伝わる。
  だから、友達になってくれないんだ」
 「伝わったら、なんでお友達に慣れないの?以心伝心って言うじゃない?お友達になれるはずだよ」
 サメは、例えを考えました。
 「君にも鳥やネズミの友達がいるだろう?でも、彼らは同時に君のご飯でもある」
 「僕は、お友達を食べないよ、だって特別だもの」
 「でも、美味しそうだと思ったことは?」
 「うーん、あるー・・かな?」
 モモタは、申し訳なさそうに答えます。
 「もし、その考えが彼らに伝わったら、それでもモモタの友達になってくれるだろう?
 「なってくれるよ」
 「なってくれないさ。
  モモタは、俺が君に何を思っているか分かるか?」
 「お友達になりたい」
 「それも思っているけど、食べちゃいたいとも思っているよ」
 「えぇ!本当?」
ビックリしたモモタに、サメが続けて言いました。
 「不安に思ったろう?波に足をつけるのさえも、怖く思っただろう?」
 モモタは否定できません。
 「そうだ、コウモリさんとなら、お友達になれるよ」
 「君は、友達でいてくれないのかい?」
 「僕たちはお友達だよ、変わらないよ」
 喜ぶサメを見たモモタは、後で思いました。
 「サメさんの言う通り、やっぱり怖いって思っちゃった。
  もし知られたら、サメさんは悲しむだろうな」






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