エスパー&ソーサラー

緒方宗谷

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殺人鬼の正体

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 誰もが寝静まった真夜中、一瞬、路地から大通りへ閃光が広がる。ミリィが放ったサイコブレッドを受けた殺人鬼の足を止めようと、目くらましにサラがライティングを唱えたのだ。
 力を抑えて小さな光の玉を発動させただけとはいえ、眼前で放つ強い光の前に、目を潰された殺人鬼は顔面を抑えて、ナタの様な包丁を振り回しながら膝をついた。
 「さあ、どうしてくれようかしら」とミリィが腕を組む。
 4人に取り囲まれた殺人鬼に抵抗する様子は無い。
 しばらく沈黙していた殺人鬼は、指の間から冷たい眼光をミリィに向ける。
 「くっくっくっ、ちょうど良いところに戻って来たな、ミリィ・グランディア」
 「!? その声!!」
 立ち上がろうとする殺人鬼の動作に恐怖を覚えたミリィは、咄嗟に空に舞い上がってスパークルブラストをぶっ放した。
 「ぐうっ!」
 炸裂した3発の内1発は外れたが、1つは左肩、もう一つは左足に直撃し吹き飛ぶ。
 「ルーゲイル?」
 「うそ?」
 叫ぶミリィの声を聞いて、サラが愕然とする。ラングもウォーロックも言葉を失い、なんて言っていいか分からず、戸惑っている。
 殺人鬼の身を覆っていたフードのついた布製の汚い外套が、続けて放たれた歪なサイコキャノンで破れて風に飛ばされていった。
 薄らと光を放つ白い肌、間違いなく天人だ。だが、その肉体は悍ましく腫れあがっていて、以前の美しい男の姿ではない。
 ブヨブヨとした姿は腐ったトマトの様でもあり、肉塊の様でもある。頭は、むき出しになった脳みそのように膨張していた。
 左右の目の位置もずれていて、右目は頬骨のあたりにあり、左目は、腫れて膨らんだおでこの上にある。飛び出た両目は、今にも瞼から抜け落ちてしまいそうだ。溶けたロウのように爛れ、広がったヒダヒダに耳の様な物が付いている。
 露出した肌は、どこを見ても奇形腫瘍を起こして弾けそうなほどに醜く膨れている。
 肌は、素揚げにした白身魚を水に浸したようにテカッていた。
 光体に近かった肉体の神々しさは微塵もない。魔獣とも神獣ともいえない奇怪なその姿は、もはやあの時のルーゲイルとはかけ離れていた。
 強い神気も感じられない。異様なまでの風貌とは裏腹に、圧倒的な力を有している様には見えなかった。
ミリィの体を利用して手に入れた神体を制御できていないようだ。
 「ふーん、神になるのは失敗したのね? それで、なんとか持ちこたえるために、たくさんの人を殺して、生気をすすっていたんでしょ?
  でも、ダメだったみたいね。わたしの体を器に再生したいのかしら?」
 「さすがはミリィ・グランディア、察しが良いな。
 おま、お前の肉体は特別なようだ。代わりをいくら探しても、具合が良い肉は見つからなかった」
 そばに眷族の気配は感じられない。天界を追われた身だ。ここに来るまでに、多くの堕天使が人間界に紛れた天使や神教徒によって討たれたのだろう。もはや、裸の反乱者でしかない。
 ルーゲイルの計画は、完全にとん挫していた。


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