エスパー&ソーサラー

緒方宗谷

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剥魔

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 一瞬にして、ルーゲイルの周りの空間が歪む。振り向くと、2本の恐ろしげな角を生やした巨大な人型の山羊の悪魔が、防御結界を握りつぶそうとしている。
 カラスのような羽をバサバサと羽ばたかせる悪魔を見上げる連合軍の兵士たちは、2体目の魔王が降魔したのだと絶望に打ちひしがれていた。
 しかし、新たに現れた魔王が放つ魔力は、兵士たちを沈めたルーゲイルの魔力の海を侵食し、ついには、ルーゲイル本人へとその手を伸ばす。
 それを意に介せず、ルーゲイルが言う。
 「生きていたのか、バフォメットよ。しかしなぜ魔に堕ちたる神のお前が、大魔王と化した私に牙をむくのだ。
  黙って静かにしていれば、我が配下に加えてやったものを」
 「わしは、少々長く人間と胃過ぎたようだ。剣の中に封じられてはいたが、退屈はしなかったのだよ。
  それにな、少なくとも私より力の強い新しい魔王など必要はないのだ、この地上にはな」
 バフォメットは凄まじい魔力を発して、ルーゲイルの殲滅にかかった。雄たけびを上げるルーゲイルはそれを耐え抜き、自らの結界を握りつぶさんとする掌を両手で突いて血肉を握りつぶす。
 結界の中にはバフォメットの魔力が充満してルーゲイルを蝕むと同時に、ルーゲイルは、突き立てた手から魔力を発して、バフォメットを侵食した。
 「ミリィさん大丈夫ですか?」とサラ。
 2号を回収したミリィは、サラの肩を借りて立ち上がった。
 ウォーロックが空を見上げながら言う。
 「鉄の剣が折れたら、死ぬんじゃなかったのか、騙されたぜ」
 ここは魔神から近いせいか、4人の周りを渦巻くバフォメットの魔力によって、ルーゲイルの配下にいる悪魔たちは近づけない。中には、寝返る悪魔が出るほど混乱している。
 悪魔教牝馬の爪の幾人かが叫ぶ。
 「教祖様! 2体の魔王どちらにつきますか?」
 「ルーゲイル様は我々ごと殺そうとしましたよ」
 信者たちも真っ二つに割れて荒れ始める。2体の魔王の魔力にあてられた信者と魔獣は、ついに仲間割れをして戦い始めた。
 サラに連れられたミリィと、ウォーロックに連れられたラングは、ロンドル将軍と合流して後退を余儀なくされていた。
 徐々にではあるが、バフォメットの巨体が縮み始めている。ルーゲイルに比べて魔力の減少が激しいのだ。
 そもそもルーゲイルは、もともとが天人という高度な体を有していた上に、現人神と化したミリィを利用して神体を手にいれ、ズメホスを吸収する事によって魔体をも手中に収めている。
 もはや、その力は並の魔王を超越するばかりか、セレスティアル・ヒエラルキーの各クラスを束ねる長にも匹敵する力を有していた。まだズメホスと融合しきっていないとはいえ、その力はバフォメットを凌駕している。
 「まずいぞ! このままじゃ、バフォメットのやつがやられちまうぞ」
 ウォーロックは、落ちていたシルバーグレードを拾って身構えた。
 よろめきながらもシルバーグレードを拾ったラングが言う。
 「決死の覚悟じゃあないな、もう必死の覚悟か?」
 「ちょっと待って、まだ1つ試したいことがあるの」とミリィが2人を制止する。「昔、幼稚園のときにお父様の書斎で見たサイキックの教典に書いてあったのを思い出したのよ」
 サラ、ドン引き。
 「幼稚園でサイキックの教典て、どんな幼児ですか?」
 頭おかしいんじゃないか、という目でサラが見る。
 ミリィが続ける。
 「なんて書いてあったかは分からないけど、何となくイメージがあるのよ」
 「それを使えば、勝てそうなのか?」
ラングの目に希望が灯った。
 「分からないわ。でも、わたしが使える技よりも、その技の方が強いのは確かね」
 ミリィが憶えているのは、技の名前と本に乗っていた図解のみだ。試みたところで、発動しなければ全てが終わりを迎えてしまう。
 これが、最後のチャンスであった。

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