Kaddish

緒方宗谷

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永遠

29ー2

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 『最愛の人メラへ
 
  ようやく再会できましたね。
  貴女が守り抜いた春人は、幸せに生きていますよ。
  本来なら、私が命に代えて貴方を守り抜かねばならなかったのに、本当に申し訳ありません。
  私の人生の中で、最大の後悔は貴方を守りきれなかった事だけです。
  それが出来なかった事がとても残念でなりません。
  私は、日本で貴方に一目ぼれして以来、貴方を思わなかった日は、ただの1日もありませんでした。
  メラがいてくれたおかげで、私の心は喜びと愛に満たされ、心を弾ませる楽しい毎日を過ごせました。
  貴女の前向きな性格があったればこそ、私は伸び伸びと活きていたのです。
  一度だけ、メラは、私をドイツに連れてきた事を後悔した事がありましたね。
  私は、貴女の後悔を否定して、こう言いました。
  メラが私達をドイツに連れてきたからこそ、人としてなすべき使命に出会えたのです。
  お兄ちゃんの春人は短い人生でしたが、長く生きた人よりも沢山の愛情を貴方から注がれていますし、とても幸せだったでしょう。
  日本でもドイツでも、寝室から見える庭は不思議の舞台でした、映画の様でもありました。
  ですから、あの子は、自らの人生を不幸だったなどとは思っていないでしょう。
  そうでなければ、亡くなったあの日、あれほど安らかな寝顔であった理由の説明が出来ません。
  ドイツに来たからこそ、弟の春人にも出会えたのです。
  メラ、貴女はどの様な困難に直面しようとも、常に私を励まし支え、背中を押してくれました。
  あの後、春人とはぐれた私は、このまま死んでしまいたいと放心しておりましたが、私の心に宿ったメラの魂が私を励ましてくれたおかげで、生き続ける事が出来ました。
  連れ去られた春人を救い出すため進み続けられたのも、諦めてもおかしくない状況で戦い続けられたもの、みんな貴女が私を見守っていてくれたからでしょう。
  本当に貴女の言う通りです。神様は必ず見ていてくれます。諦めなければ、必ず救ってくれるのです。
  あれからもうすぐ9年が経ちます。
  あの日から今日を振り返って、私は自信を持って、貴女が私に言った後悔の言葉を否定しますよ。
  私は生涯幸せでした。今までも、そしてこれからも私は永遠に、貴女を愛し続けるでしょう。もう永遠に貴女とはなれません。
  1950年5月19日』
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