Kaddish

緒方宗谷

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希望

28ー2

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 ハルトが幸助に再会した強制収容所。そして二人を別った強制収容所。
 「この子供はどうしますか?」
 「殺してしまえ」
 「日本人は?」
 「治療して尋問する」
 立場が危うくなった陸軍士官は、場を取り繕うべく指揮を執る。一瞬、口封じにコウスケを殺してしまおうかと迷ったが、頭を過った考えを捨て、彼を救う事を選択した。
 「一体全体どういう事だね」
 騒ぎを聞きつけてやってきた所長は、事態を飲み込む事が出来ずに、事件を引き起こした日本人を伴って来たトーマスを問い詰めた。
 「私にも分からないのです。
  ただ、私が知っている事は、この男が抹殺すべき子供を隠し育てていた事だけです」
 「君は、それを知っていながら、ここに連れてきたというのかね?」
 所長室に連れてこられたトーマスは、延々と尋問を受け続けた。
 「事情があるのです、聞いてください。
  この男は会社をやっていて、とても軍に協力的でしたから、懇意にしていました。
  ドイツ女性との間に1人息子がいたのですが、実は、実の子ではなかったのです。
  ある時、私の妻がその真相を知ってしまって、相談を受けました。
  私は、親衛隊に報告するように言いました。
  事が事だけに、親衛隊に調査してもらい、処分を委ねようと思ったのです」
 「うーむ、だいぶ複雑の様だな。だが、君への疑いは晴れないよ」
 「ご冗談を。私は、彼に疑念を持った時点で、親衛隊に報告しました。
  町を守るために、彼の会社を利用する必要がありましたし、先々彼が日本人であることが利用できるのではないかとも考えました。
  現に、ここまでの旅路に必要だった食事の半分は、彼が集めた食材です。皆さんがこれから食べる物も、一部は彼の用意したものですよ。
  それに、彼がスパイであるなら、目の届くところに置いておいた方が賢明だと思ったのです。ですから、彼を同行させていたのです」
 トーマスは、自らの命を守るために真実を隠し、ハルトを処刑台へと送った。自らを総統閣下に忠誠を誓う下僕であると、皆に見せつけたのだ。そして、そのまま汽車に戻って、発車と共にどこかへ行方をくらませてしまった。
 1945年4月、ソ連軍が押し寄せる事を知った所長は、収容所を閉鎖した。その際に昏睡状態のコウスケは放置された。本来なら殺されたはずだが、突然の混乱に、運よく殺されずに済んだのだ。
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