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再会
22ー4
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私は、喉が破れんばかりに叫んだ。
「何をするんだ!! 離せ!! 離すんだ!!」
「お父さん! 助けて! お父さん!!」
ダニエルは、部下である親衛隊員に取り押さえさせた私達2人の間に入って、微笑もせずに低い声で言った。
「コウスケ・ツチヤ、ベルリンにある君の家の庭に埋まっているアレは、何なのだね?
この子供が君の子でない事は、既に調べがついているのだよ」
「そんな事関係ない!! はるとは私の子だ!! 私とメラの子供なんだ!!」
「君達夫婦がした事は、重大な裏切り行為だ。ドイツに対しても、君の祖国に対してもね」
「ドイツを裏切っている? 日本を裏切っているだって!? 裏切っているのはナチスの方だ。
いったいここは何なのだ!! ドイツ人を騙してこんな所を作り、挙句の果てに国家自体が存亡の危機に晒されている!! これが裏切りでなくて、なんと言うのだ!!
それに、日本はお前達になんか加担していない!! 大東亜共栄圏を建設しようとしていたんだ!! 人種民族で差別されない五族共栄を願っていたんだ!!」
「何故それを真実だと思える? それを本当に信じられるのか?」
私は反論できなかった。2.26事件で自国の首相を暗殺しようとするような国だ。外国に住んでいるからこそ、日本の実情が見えていた。政府は暴走する陸軍を抑えきれていない。大陸での戦争を終息させる事が出来ずに泥沼化させ、遂にはハワイ真珠湾を奇襲したのだ。
「君は知らないだろうが、既にサイパンは落ち、ガダルカナルも落ち、陸軍も海軍も無いに等しい。
それでもなお、国民を騙し続ける君の国が、どんな高邁な理想を掲げていたというのだね?
そもそも、それを建設しようとしている大陸は、日本を支持していないようだ。
国民党軍も、共産党軍も、ずっと日本に敵対しているではないか」
「国なんて関係ない!! ドイツなんて! 日本なんて糞食らえだ!! はるとを返せ!!」
「お父さん! お父さん!!」
骨と皮だけになったはるとは、なんて哀れなのだろうか。何人もの親衛隊に取り押さえられ圧死してしまいそうな中で、私に助けを求めている。
「はるとー!! はるとっ! 春人!!」
私は親衛隊を振りほどき、走った。春人を抑えていた隊員が1人立ちはだかり、取っ組み合いになる。直後に隊員が唸った。私は先祖伝来の懐刀を抜いて、私を阻む男の腹を刺したのだ。
取って返す勢いで、私はダニエルの首を掻っ切る。膝が折れる間に拳銃を抜いた彼は、私の腹を撃った。
「おとーさん! おとーさん!! 死なないで! おとーさん!!」
スズメバチに刺されたかのような痛みが腹から全身に広がり、鉄ゴテを押し当てられて焼かれているかの如く、腹が重々しく慟哭して響く。
急速に意識が遠のいていく。暗くなる視界の外で、春人の声が響いていた。真っ暗な空間の中に鮮やかな美しさを放つメラが思い浮かぶ。
「ごめん、ごめんよメラ、約束を守れなくて」
死んだらまたメラに会えるだろうか。ああどうか神様、僕は天国になんて行きたくありません。どうか、どうか春人のそばにいさせてください。永遠にメラに会えなくともかまいません。地獄に落ちても魂が尽きても構いません。どうか春人をお救いください。
私は後悔に苛まれて悶絶躄地(びゃくじ)とした魂を抱えながら、深く光の届かない沼の底へと落ちていった。
幸助編 完
「何をするんだ!! 離せ!! 離すんだ!!」
「お父さん! 助けて! お父さん!!」
ダニエルは、部下である親衛隊員に取り押さえさせた私達2人の間に入って、微笑もせずに低い声で言った。
「コウスケ・ツチヤ、ベルリンにある君の家の庭に埋まっているアレは、何なのだね?
この子供が君の子でない事は、既に調べがついているのだよ」
「そんな事関係ない!! はるとは私の子だ!! 私とメラの子供なんだ!!」
「君達夫婦がした事は、重大な裏切り行為だ。ドイツに対しても、君の祖国に対してもね」
「ドイツを裏切っている? 日本を裏切っているだって!? 裏切っているのはナチスの方だ。
いったいここは何なのだ!! ドイツ人を騙してこんな所を作り、挙句の果てに国家自体が存亡の危機に晒されている!! これが裏切りでなくて、なんと言うのだ!!
それに、日本はお前達になんか加担していない!! 大東亜共栄圏を建設しようとしていたんだ!! 人種民族で差別されない五族共栄を願っていたんだ!!」
「何故それを真実だと思える? それを本当に信じられるのか?」
私は反論できなかった。2.26事件で自国の首相を暗殺しようとするような国だ。外国に住んでいるからこそ、日本の実情が見えていた。政府は暴走する陸軍を抑えきれていない。大陸での戦争を終息させる事が出来ずに泥沼化させ、遂にはハワイ真珠湾を奇襲したのだ。
「君は知らないだろうが、既にサイパンは落ち、ガダルカナルも落ち、陸軍も海軍も無いに等しい。
それでもなお、国民を騙し続ける君の国が、どんな高邁な理想を掲げていたというのだね?
そもそも、それを建設しようとしている大陸は、日本を支持していないようだ。
国民党軍も、共産党軍も、ずっと日本に敵対しているではないか」
「国なんて関係ない!! ドイツなんて! 日本なんて糞食らえだ!! はるとを返せ!!」
「お父さん! お父さん!!」
骨と皮だけになったはるとは、なんて哀れなのだろうか。何人もの親衛隊に取り押さえられ圧死してしまいそうな中で、私に助けを求めている。
「はるとー!! はるとっ! 春人!!」
私は親衛隊を振りほどき、走った。春人を抑えていた隊員が1人立ちはだかり、取っ組み合いになる。直後に隊員が唸った。私は先祖伝来の懐刀を抜いて、私を阻む男の腹を刺したのだ。
取って返す勢いで、私はダニエルの首を掻っ切る。膝が折れる間に拳銃を抜いた彼は、私の腹を撃った。
「おとーさん! おとーさん!! 死なないで! おとーさん!!」
スズメバチに刺されたかのような痛みが腹から全身に広がり、鉄ゴテを押し当てられて焼かれているかの如く、腹が重々しく慟哭して響く。
急速に意識が遠のいていく。暗くなる視界の外で、春人の声が響いていた。真っ暗な空間の中に鮮やかな美しさを放つメラが思い浮かぶ。
「ごめん、ごめんよメラ、約束を守れなくて」
死んだらまたメラに会えるだろうか。ああどうか神様、僕は天国になんて行きたくありません。どうか、どうか春人のそばにいさせてください。永遠にメラに会えなくともかまいません。地獄に落ちても魂が尽きても構いません。どうか春人をお救いください。
私は後悔に苛まれて悶絶躄地(びゃくじ)とした魂を抱えながら、深く光の届かない沼の底へと落ちていった。
幸助編 完
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