Kaddish

緒方宗谷

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再会

22ー3

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 「なんというところだ。 これではまるで監獄ではないか!!」
 私は愕然とした。士官に連れられてやってきた収容所は、四方を塀で囲まれ、監視塔まである。囚人を閉じ込めておくような場所にしか見えない。ゲシュタボだろうか、収容所を守る隊員は、看守の様だ。
 私をなだめる士官は、静かに言った。
 「あまり目立つ様な事はするな。前にも話した通り、親衛隊のダニエルは、ハルト君の素性を知っているのだ。
  もしかしたら、ここの者達だって知っているかもしれない。
  さすがに、君達のために私が巻き込まれるのはごめんだ」
 中に入ると、歪めた顔を隠そうと口を覆う事すら出来ないほどの光景が広がっている。噂には聞いていた。連れ去られた人々は、毒ガス室に閉じ込められて虐殺されている、と。
 本当にここは地上なのだろうか。そばには地獄の門が聳えているのではないかと思える光景である。まさに生き地獄であった。
 ここも爆撃されたらしく、火災の跡が壁や地面に残っている。無残な死体も積まれていて、子供達が運ばされていた。
誰もが無表情で私を見上げている。何も話さずに私を見ていた。
 「はるとー! はると! いるのなら、返事をしてくれ!!」
 制止する士官を振り払って、私は駆けだした。作業をしていた子供が、顔をあげて幸助を見る。その中に、こっちへ近寄ってくる子供がいた。
 「はると? あんた日本人? あいつ、本当に日本人の子供だったの?」
 「息子を知っているのか? どこだ? どこだか教えてくれ」
 そう叫ぶ私の声に重なって、後ろから叫ぶ声が聞こえた。
 「お父さん!? お父さん!?」
 振り返ると、そこにははるとがいた。容姿は全く変わってしまっていたが、私はすぐに気が付いた。
 駆け寄って跪く私の胸に、はるとが飛び込んだ。私達は力強く抱きしめ合い、喜びに互いを呼び合って、咽び泣いた。
 「嗚呼神様、ありがとうございます! ハルトと生きて会わせてくれて、本当にありがとうございます。
  もう二度と離さないぞ、はると、2度と離すものか。一緒に帰ろう、お母さんに報告するんだ」
 だが、再会の奇跡は長くは続かなかった。ついてきた親衛隊員が、私達を引きはがしたのだ。
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