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町の空き家と家庭の味
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町は閑散としていたが、親衛隊の車両が止まっていて、その横を通過する度に私は極度の緊張に襲われた。本心を隠すために、旭日旗と鍵十字の小旗を車にはためかせる。それが功を奏したのか、1度も呼び止められる事は無く、町をドライブする事が出来た。
草原に流れる川に架かる橋の傍でお昼を食べる事にした我々は、郊外へと車を走らせる。その途中、私達夫婦は町の違和感に気が付いた。のどかな静かさはなりを潜め、静まり返ったゴーストタウンといった雰囲気が家々を覆っている。
町に人がいないとはいえ、家の中には家族の営みがあるのだから、このような雰囲気になるなんてありえない。庭が荒れ始めた1軒の民家の前に車を止めて様子を窺おうとしたが、逆に私は速度を上げてこの場を走り抜けた。庭の荒れ具合はどこも同じであることに気が付いた。この辺りの民家には、誰も住んでいないのだ。
妻も気が付いているようだ。この辺りにドイツ人は住んでいない。そして、ここに住んでいた人々は、町に住むドイツ人に気が付かれる事なく、いつの間にかどこかに連れ去られてしまったのだ。
まだ気が付いていない様子のハルトに民家の様子を見せまい、と後ろを振り返って息子と目を合わせて、秋の小川と小さな花々が美しい事、小さな橋が可愛らしい事を話して聞かせた。私達は、もう2度とこの子に、ベルリンで体験した悪夢を思い出させるわけにはいかない。
思った通り、陽の光を反射してキラキラ輝く小川のせせらぎは美しかった。川辺には、小指の先ほどの小さな花がいっぱい咲いていて、雲1つない暖かな陽気は、ピクニックをするのにちょうど良い。
原っぱでキャッキャと鬼ごっこをするハルトは、本当に子供らしい笑顔ではしゃいでいる。家の中では我々に気を使っているのか、どことなく薄く透明な壁を感じる瞬間もあるのだが、今日のこの子には、それが全く感じられない。
妻は日傘の下で、微笑ましくハルトを見守っている。朝ご飯をいっぱい食べたから、走り回る燃料は満タンだ。靴を脱いで川に入って魚を追いかけたり、どちらが石を遠くに投げられるかを競ったりと、何をどれほどやってもやり足りない。抑え込まれていた元気が一度に解放され、私の体力はハルトについていけないほどだった。
お昼に呼ぶ声に叫んで返事をして駆けて行ったハルトは、妻に手を洗うように言われて川に走る。戻ってきて真っ先に頬張ったお昼ご飯は、おにぎりだった。
綺麗な三角とはいかなかったが、少し丸みを帯びる白米が可愛らしい。海苔が無いので、代わりに何故かキャベツで包んである。新鮮キャベツとおにぎりの塩気がなかなか合うのを、私は初めて知った。
中身は、濃いめに味をつけた肉だったり、川魚の塩焼きだったりしたが、私としては、正直焼鮭の方が良い。ハルトは、麦とは違う米の甘みに大満足の様子で、2つ3つと口に頬張る。私達は、月に1度はピクニックを開催し、ドイツでは珍しいお弁当に舌鼓を打った。
草原に流れる川に架かる橋の傍でお昼を食べる事にした我々は、郊外へと車を走らせる。その途中、私達夫婦は町の違和感に気が付いた。のどかな静かさはなりを潜め、静まり返ったゴーストタウンといった雰囲気が家々を覆っている。
町に人がいないとはいえ、家の中には家族の営みがあるのだから、このような雰囲気になるなんてありえない。庭が荒れ始めた1軒の民家の前に車を止めて様子を窺おうとしたが、逆に私は速度を上げてこの場を走り抜けた。庭の荒れ具合はどこも同じであることに気が付いた。この辺りの民家には、誰も住んでいないのだ。
妻も気が付いているようだ。この辺りにドイツ人は住んでいない。そして、ここに住んでいた人々は、町に住むドイツ人に気が付かれる事なく、いつの間にかどこかに連れ去られてしまったのだ。
まだ気が付いていない様子のハルトに民家の様子を見せまい、と後ろを振り返って息子と目を合わせて、秋の小川と小さな花々が美しい事、小さな橋が可愛らしい事を話して聞かせた。私達は、もう2度とこの子に、ベルリンで体験した悪夢を思い出させるわけにはいかない。
思った通り、陽の光を反射してキラキラ輝く小川のせせらぎは美しかった。川辺には、小指の先ほどの小さな花がいっぱい咲いていて、雲1つない暖かな陽気は、ピクニックをするのにちょうど良い。
原っぱでキャッキャと鬼ごっこをするハルトは、本当に子供らしい笑顔ではしゃいでいる。家の中では我々に気を使っているのか、どことなく薄く透明な壁を感じる瞬間もあるのだが、今日のこの子には、それが全く感じられない。
妻は日傘の下で、微笑ましくハルトを見守っている。朝ご飯をいっぱい食べたから、走り回る燃料は満タンだ。靴を脱いで川に入って魚を追いかけたり、どちらが石を遠くに投げられるかを競ったりと、何をどれほどやってもやり足りない。抑え込まれていた元気が一度に解放され、私の体力はハルトについていけないほどだった。
お昼に呼ぶ声に叫んで返事をして駆けて行ったハルトは、妻に手を洗うように言われて川に走る。戻ってきて真っ先に頬張ったお昼ご飯は、おにぎりだった。
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中身は、濃いめに味をつけた肉だったり、川魚の塩焼きだったりしたが、私としては、正直焼鮭の方が良い。ハルトは、麦とは違う米の甘みに大満足の様子で、2つ3つと口に頬張る。私達は、月に1度はピクニックを開催し、ドイツでは珍しいお弁当に舌鼓を打った。
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