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髑髏を冠する黒い私兵
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ハルトの病歴がうかがえる書類は携えていたが、正直誤魔化し切れる自信は無い。
駅についてから、この社員の協力でまたハルトを背負って帯で結ぶのは危険だと判断した私は、ハルトをおぶったまま後部座席に斜めに座って、駅までの道のりをやり過ごした。それほど長い距離ではないはずだったが、とても長い時間が過ぎたように思えた。
外には、沢山の死体が転がっている。殺される予定の人々によって、殺された人々の死体がかたされていく。この社員は、彼らについて何も言及しなかったが、その身に纏う空気から、私は志を同じくする者では無い、と察した。
叫び声と銃声が木霊する。向こうの通り沿いのアパートの窓ガラスが割れて、女性らしき影が落ちていくのが見えた。離れていたが、その衝撃が伝わって来るかのように感じる。心が気持ち悪くるなる音が聞こえた。
駅は思いのほか混んでいる。連行された人々が輸送されるのか、それとも、ベルリンを脱出するドイツ人が多いのか分からない。
私はしばらく様子を見ていたが、このままではらちが明かない。既に汽車に乗る手はずは整っているのだから。
発車時刻を確認すると、私は車を降りて社員に別れを告げて、駅舎に向かった。
駅には既に汽車が到着している。座る予定だった席には既に知らない人が座っていたが、私はその場で注意をせず素知らぬ顔で外に出て、駅員を掴まえてお札を渡して切符を見せ、自分達の席が盗られている事を訴えた。
普段なら、直接本人に言ってやるのだが、もめるのは避けたい。かといって、子供を背負ったまま立って電車に揺られるわけにもいかない。
「いや、申し訳ない、退いてもらって、本当に申し訳ないね。
だが、どうしても退いてもらうしかない事情があるんだ。
実は、私の息子はとても病弱で、これから田舎で療養生活を送るために出発するんだ。
この子の体では、席に座らせてやらねば体に毒なんだ」
こちらは全く悪くなかったが、少しでも逆恨みされるのを避けようと、私は平謝りを繰り返す。席を陣取っていた男女の4人は3等車両の乗客だったから、この車両から駅員によって連れ出された。
席はほとんど埋まっていたが、立っている人はいない。幸い私達が座る席は、他には誰もいなかった。本当は、人目を気にしないで済む寝台列車の方が良かったのだが、急すぎて切符を手に入れることが出来なかった。
それでも運が良い。私はハルトの顔が見えないように心掛けて、2席を使って横にした。自分は朝食でたっぷりのコーヒーを飲んでいたからとても目がさえていて、常に周りに気を配り続けることができた。
戦争が始まっているなんて嘘のようだ。車窓から見る草原は、全く血に汚れていない。これから冬なのだからまだ新芽が芽吹いていないのは当然だが、それでも日差しが差し込む窓辺はとても温かで、ベルリンの悪夢など忘れてしまいそうだ。
汽車の揺れは優しい揺り籠の様ではなかったけれども、ハルトは静かに寝ている。支店に着きさえすれば、ハルトを誰にも合わせなくて済む部屋で、伸び伸びと生活させることが出来るだろう。
駅についてから、この社員の協力でまたハルトを背負って帯で結ぶのは危険だと判断した私は、ハルトをおぶったまま後部座席に斜めに座って、駅までの道のりをやり過ごした。それほど長い距離ではないはずだったが、とても長い時間が過ぎたように思えた。
外には、沢山の死体が転がっている。殺される予定の人々によって、殺された人々の死体がかたされていく。この社員は、彼らについて何も言及しなかったが、その身に纏う空気から、私は志を同じくする者では無い、と察した。
叫び声と銃声が木霊する。向こうの通り沿いのアパートの窓ガラスが割れて、女性らしき影が落ちていくのが見えた。離れていたが、その衝撃が伝わって来るかのように感じる。心が気持ち悪くるなる音が聞こえた。
駅は思いのほか混んでいる。連行された人々が輸送されるのか、それとも、ベルリンを脱出するドイツ人が多いのか分からない。
私はしばらく様子を見ていたが、このままではらちが明かない。既に汽車に乗る手はずは整っているのだから。
発車時刻を確認すると、私は車を降りて社員に別れを告げて、駅舎に向かった。
駅には既に汽車が到着している。座る予定だった席には既に知らない人が座っていたが、私はその場で注意をせず素知らぬ顔で外に出て、駅員を掴まえてお札を渡して切符を見せ、自分達の席が盗られている事を訴えた。
普段なら、直接本人に言ってやるのだが、もめるのは避けたい。かといって、子供を背負ったまま立って電車に揺られるわけにもいかない。
「いや、申し訳ない、退いてもらって、本当に申し訳ないね。
だが、どうしても退いてもらうしかない事情があるんだ。
実は、私の息子はとても病弱で、これから田舎で療養生活を送るために出発するんだ。
この子の体では、席に座らせてやらねば体に毒なんだ」
こちらは全く悪くなかったが、少しでも逆恨みされるのを避けようと、私は平謝りを繰り返す。席を陣取っていた男女の4人は3等車両の乗客だったから、この車両から駅員によって連れ出された。
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それでも運が良い。私はハルトの顔が見えないように心掛けて、2席を使って横にした。自分は朝食でたっぷりのコーヒーを飲んでいたからとても目がさえていて、常に周りに気を配り続けることができた。
戦争が始まっているなんて嘘のようだ。車窓から見る草原は、全く血に汚れていない。これから冬なのだからまだ新芽が芽吹いていないのは当然だが、それでも日差しが差し込む窓辺はとても温かで、ベルリンの悪夢など忘れてしまいそうだ。
汽車の揺れは優しい揺り籠の様ではなかったけれども、ハルトは静かに寝ている。支店に着きさえすれば、ハルトを誰にも合わせなくて済む部屋で、伸び伸びと生活させることが出来るだろう。
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