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北与野 ~不思議の国の館~
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なんの変哲もない道路が延びる。静かな団地の一角で、小さなウサギ(?)の木製サインに気を取られて視線をあげると、無垢なコットン色の生地に透ける薄明かりを見つけた。
扉も窓も、ガラス面が内側から布で隠されていて、店内の擁すはうかがい知れない。Openという文字を見つけて中をのぞく。夜の帳が下りたかのような星影に浮かび上がるのは、どことなく中世的で欧風な木の趣。
眩しさの中にあった双眸では、奥まで見渡せないが、かろうじて見えたカウンターの向こうの女店主に、会釈をする。案内されたのは、大食堂の隣に作られたような小部屋で、二畳程度だろうか。
三十センチほどの奥行きがあるL字のカウンターがついていて、肘掛けのある椅子が二脚あった。
大食堂にはドライフラワーなどと、いくつかの写真立てが飾られている。他に目立った装飾品はなく、家具のデザインが際立つ。
席についてからコーヒーが出てくるまでに、何曲かBGMが変わったが、一貫してピアノソロでジャズが奏でられている。
しばらくして出てきたコーヒーは、お店オリジナルのブレンドで、小さな額縁のメニューを見る限り、ネルドリップのようだ。
香りは仄か。いい意味で、香水のようなダーティーさが鼻腔を乱す。
舌触りは淡白で、先頭を切って味蕾を刺激した酸味もすぐに消え去る。追って、さらりとした水に包まれた苦味が舌の上に解放されると、それは柔らかく、それでいて強く口内に広がる。
時折、布を透かす人影が通りすぎてゆく。眼前に広がる景色は、よくある町並みだけれど、薄い布一枚を隔てたけで、どこか夢幻の中にいる心地だ。
冷めて味に落ち着きが出てくると、優しく清々しい酸味が広がるようになって、それと共にダークチョコレートににた苦味の余韻が、微かに感じられるようになる。
帰り際にトイレを借りたが、二重扉になっていて、ステンドグラスが嵌め込まれていた。そして個室の窓もステンドグラス。ノブはダイヤモンド型のガラス製。何気に見たペーパーホルダーは真鍮色で、舌状花のような模様があって、レトロなセンスの良さを感じる。
外に出ると、天高くから降り注ぐ太陽の光は、既に肌を蒸し焼くように熱い。桜が咲いて間もないというのに、先が思いやられると思いながらも、どこからともなく聞こえてくる和太鼓の軽快で重厚な音色に励まされて、歩を進めることにした。
扉も窓も、ガラス面が内側から布で隠されていて、店内の擁すはうかがい知れない。Openという文字を見つけて中をのぞく。夜の帳が下りたかのような星影に浮かび上がるのは、どことなく中世的で欧風な木の趣。
眩しさの中にあった双眸では、奥まで見渡せないが、かろうじて見えたカウンターの向こうの女店主に、会釈をする。案内されたのは、大食堂の隣に作られたような小部屋で、二畳程度だろうか。
三十センチほどの奥行きがあるL字のカウンターがついていて、肘掛けのある椅子が二脚あった。
大食堂にはドライフラワーなどと、いくつかの写真立てが飾られている。他に目立った装飾品はなく、家具のデザインが際立つ。
席についてからコーヒーが出てくるまでに、何曲かBGMが変わったが、一貫してピアノソロでジャズが奏でられている。
しばらくして出てきたコーヒーは、お店オリジナルのブレンドで、小さな額縁のメニューを見る限り、ネルドリップのようだ。
香りは仄か。いい意味で、香水のようなダーティーさが鼻腔を乱す。
舌触りは淡白で、先頭を切って味蕾を刺激した酸味もすぐに消え去る。追って、さらりとした水に包まれた苦味が舌の上に解放されると、それは柔らかく、それでいて強く口内に広がる。
時折、布を透かす人影が通りすぎてゆく。眼前に広がる景色は、よくある町並みだけれど、薄い布一枚を隔てたけで、どこか夢幻の中にいる心地だ。
冷めて味に落ち着きが出てくると、優しく清々しい酸味が広がるようになって、それと共にダークチョコレートににた苦味の余韻が、微かに感じられるようになる。
帰り際にトイレを借りたが、二重扉になっていて、ステンドグラスが嵌め込まれていた。そして個室の窓もステンドグラス。ノブはダイヤモンド型のガラス製。何気に見たペーパーホルダーは真鍮色で、舌状花のような模様があって、レトロなセンスの良さを感じる。
外に出ると、天高くから降り注ぐ太陽の光は、既に肌を蒸し焼くように熱い。桜が咲いて間もないというのに、先が思いやられると思いながらも、どこからともなく聞こえてくる和太鼓の軽快で重厚な音色に励まされて、歩を進めることにした。
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