15 / 21
代々木公園 ~緑道に佇む静かな舞台~
しおりを挟む
新学期に合わせたかのように、桜が満開を迎えた。そんな日和に緑道をゆくと、静かに佇むカフェを見つけた。いま一杯飲んだばかりだったが、大きなA型看板に書いてある文言を見て、即座に入店を決めた。BGMは、80年代から現代までのJポップ。
入ってすぐにあるカウンターでの説明によると、テラス利用やテイクアウトと店内利用とでメニューは異なり、店内にはコーヒーメニューがなく、完全なオーダーメイドで、コーヒー好きにとっては店内がおすすめだとのこと。
通されたカウンターには、既に用意されていた足付きグラスの水と小さな赤いファイルがあって、中にはアイリッシュコーヒー、その他クッキーやサンドイッチの写真がのっていた。
この店の豆は、全てスペシャリティコーヒーのようだ。ご店主自身が、Qグレイダーという資格を持っているらしい。
男性店員から声をかけられて、好みについて話し始めるとすぐに気がついた。よくあるおまかせで淹れてもらうものとは違うのだと。こと細かく質問する彼は、カルテのようにメモを取っていく。
僕は、相反することですが苦味と酸味があって、チョコレートのような甘味のある香りのしっかりとしたコクと深みがある味で、まろやかな舌触りあって、酸味にはトゲがなく、冷めるにつれて舌に広がるような感じにしてほしい、と頼んだ。
それでも答えが足りないのか、苦味についてしっかりとしたビターなガツンとしたほうがいいのか、ほどほどのほうがいいのか訊いてくる。
香りにしても、ナッツとかチョコとかフルーティーとかという大枠ではなく、ダークチョコレートなのか否か、ナッツにしてもアーモンドのようなとか、マカダミアナッツのようなとか、事細かな内容に及んだ。
会話を終えて一口飲んだ水はただ者ではなく、思わず水面を見やった。とてもまろやかでとろしとしている。そして仄かな甘さがあった。なかなか美味しい。
しばらくして、豆を挽く音が店内に響いた。それも電動ではなく、明らかに人の手が挽いている音だ。見ると、すぐそこで、重々しいミルの大きなハンドルがぐるぐると回されている。
カウンターの内側に焦げ茶と緑の大きなミルが二台備え付けられていたのは気がついていたが、飾りだと思っていた。だかそれは勘違いで、まさにそれを使用して、僕のコーヒーが作られている。エスプレッソマシーンのようなものの左横に電動ミルがあったが、オーダーメイドでは使用しないようだ。
サービスのクッキーと一緒に出てきたコーヒーは、なるほどと唸るほどのコクと苦味が色濃い。酸味がないのは仕方がないが、それを補うような香ばしさがあとを引く。驚くのは、焦げからくる尖った味は全くなく、かわりに優しくいぶされたような深みとコクを有していることだ。
小さな紙コップが運ばれてきた。この店おすすめの豆の試飲だという。
コロンビアのピンクブルボンという豆を浅煎りにしたのだと説明をくれた。名前の通り、ピンク色に熟す珍しい品種だという。
紅茶とまがうほどフルーティーで、グレープフルーツのような味わい。普段試飲があるのかどうかは分からないが、味比べができて、とても楽しい思いだ。
オーダーメイドのコーヒーは、冷めても酸味は弱かったが、満足してもしきれない飲みごたえがある。新たに訪れたお客さんと店員の会話を聞いていると、味の好みは千差万別。中には、ブラックでもミルクをいれたような味で、ミントのような香りとか珍しいものにしてほしいとの要望もあった。
それら全てに応えられるこの店なら、好みの味が見つけられないはずがないだろう。僕も新しい好みを開拓する楽しみを得られた。
この緑道が長いのか短いのかは分からない。だが、散策しがいがあった。また来る機会があれば、もっとちゃんとこの周辺を散歩したい。他にも色々と見つけられるのではないかと、大きな期待に胸が踊るひとときだった。
入ってすぐにあるカウンターでの説明によると、テラス利用やテイクアウトと店内利用とでメニューは異なり、店内にはコーヒーメニューがなく、完全なオーダーメイドで、コーヒー好きにとっては店内がおすすめだとのこと。
通されたカウンターには、既に用意されていた足付きグラスの水と小さな赤いファイルがあって、中にはアイリッシュコーヒー、その他クッキーやサンドイッチの写真がのっていた。
この店の豆は、全てスペシャリティコーヒーのようだ。ご店主自身が、Qグレイダーという資格を持っているらしい。
男性店員から声をかけられて、好みについて話し始めるとすぐに気がついた。よくあるおまかせで淹れてもらうものとは違うのだと。こと細かく質問する彼は、カルテのようにメモを取っていく。
僕は、相反することですが苦味と酸味があって、チョコレートのような甘味のある香りのしっかりとしたコクと深みがある味で、まろやかな舌触りあって、酸味にはトゲがなく、冷めるにつれて舌に広がるような感じにしてほしい、と頼んだ。
それでも答えが足りないのか、苦味についてしっかりとしたビターなガツンとしたほうがいいのか、ほどほどのほうがいいのか訊いてくる。
香りにしても、ナッツとかチョコとかフルーティーとかという大枠ではなく、ダークチョコレートなのか否か、ナッツにしてもアーモンドのようなとか、マカダミアナッツのようなとか、事細かな内容に及んだ。
会話を終えて一口飲んだ水はただ者ではなく、思わず水面を見やった。とてもまろやかでとろしとしている。そして仄かな甘さがあった。なかなか美味しい。
しばらくして、豆を挽く音が店内に響いた。それも電動ではなく、明らかに人の手が挽いている音だ。見ると、すぐそこで、重々しいミルの大きなハンドルがぐるぐると回されている。
カウンターの内側に焦げ茶と緑の大きなミルが二台備え付けられていたのは気がついていたが、飾りだと思っていた。だかそれは勘違いで、まさにそれを使用して、僕のコーヒーが作られている。エスプレッソマシーンのようなものの左横に電動ミルがあったが、オーダーメイドでは使用しないようだ。
サービスのクッキーと一緒に出てきたコーヒーは、なるほどと唸るほどのコクと苦味が色濃い。酸味がないのは仕方がないが、それを補うような香ばしさがあとを引く。驚くのは、焦げからくる尖った味は全くなく、かわりに優しくいぶされたような深みとコクを有していることだ。
小さな紙コップが運ばれてきた。この店おすすめの豆の試飲だという。
コロンビアのピンクブルボンという豆を浅煎りにしたのだと説明をくれた。名前の通り、ピンク色に熟す珍しい品種だという。
紅茶とまがうほどフルーティーで、グレープフルーツのような味わい。普段試飲があるのかどうかは分からないが、味比べができて、とても楽しい思いだ。
オーダーメイドのコーヒーは、冷めても酸味は弱かったが、満足してもしきれない飲みごたえがある。新たに訪れたお客さんと店員の会話を聞いていると、味の好みは千差万別。中には、ブラックでもミルクをいれたような味で、ミントのような香りとか珍しいものにしてほしいとの要望もあった。
それら全てに応えられるこの店なら、好みの味が見つけられないはずがないだろう。僕も新しい好みを開拓する楽しみを得られた。
この緑道が長いのか短いのかは分からない。だが、散策しがいがあった。また来る機会があれば、もっとちゃんとこの周辺を散歩したい。他にも色々と見つけられるのではないかと、大きな期待に胸が踊るひとときだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ノンフィクション短編集
BIRD
エッセイ・ノンフィクション
各話読み切り、全て実話。
あー、あるある、と思う話や、こんなこと本当に経験したの? と思う話まで。
色々取り揃えてお送りします。
不定期更新です。
もう!これだから旦那さんは!
東館北斗
エッセイ・ノンフィクション
日常ののろけ話です(*´ω`*)
twitterで言ってることぐらいなのですが、もう少しだらだら書きたくて書いてみることにしました
表紙はtwitterのアイコンと同じなので見かけたら優しくして下さいm(_ _)m
徒然なるままに
猫田けだま
エッセイ・ノンフィクション
わたしが体験した、ちょっと心に残った出来事です。エッセイ風だったり、物語風だったり、ブログだったり、形式にとらわれず、書きたいことを書きたいままに描いた日記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる