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東府中 ~旋律の街で迷い込んだふくろうの館~

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 あるコンサートまで時間があったので、どこかでランチをしようと思い、僕は辺りの捜索を開始した。
 しばらくして見つけたのは、古い昭和の家屋を改装した茶屋のような店構えのカフェ。どことなく、昔の自転車屋さんを連想させる。入り口に張り出されたメニューにランチの文字を発見したので、とりあえずここにおじゃますることにした。
 中は意外にも雑貨店で、席は見当たらない。トートバッグ、クビナガリュウ、アンモナイトその他、たくさんの缶バッチが、並んでいる。間接照明なのか、店内はうっすらとした影を纏っていた。
 奥にカウンターがあって厨房がのぞけたから、カフェであることは間違いないだろう。雰囲気は、中世ヨーロッパにあるいなかの民家に似たところもあったが、それほど木々を多用した内装でもない。だが、とても独特。枯れた感じを覚えさせるワビサビに満ちていた。
 ファサードを見る限りでは、小さな店のようだったが、内部は相当広い。十三時台ということもあり、席は半分くらいが埋まっていた。
 運良く窓際にある二人掛けの席が空いていたので、僕はそこを選んだ。窓は枝を広げる木々のような棚になっていて、黒いカラスや古いタンカーの他、いびつな卵が眠る鳥の巣をのせたデッサン用の手首の模型など、面白い置物に溢れている。紺色の三本ラインが入った赤ちゃん用の上履きが可愛い。
 足元を見ると、蔓を編んだ重厚な作りの大きなバスケットが置いてある。昨日今日買った代物とはとても思えない。あるもの全てに歴史が見て取れた。
 店内を見渡すと、カウンターの椅子の背もたれには十字にくり貫かれているのがあったが、自分の座る椅子を見るとなにもなく、木の枠になっていた。椅子には統一感がなくて面白い。
 ふと、鳥かごみたいなものが天井からぶら下がっていることに気がついた。それの底にはプラントがついていて、青々とした蔓が伸びている。たぶんスピーカーなのだろう。芸が細かい。
 テーブルは大きめで正方形、灰色で大理石のような模様が所々に入っていたので、石製かと思った。だが、触ると少し違う。裏面を擦って気がついた。のぞいてみると、明らかに木製だ。
 上から長いコードで吊るされたウズラの卵二つ分くらいの大きさの電球は、暖かいオレンジ色で、木でできた鳥にエサをやるための台のような笠を被っている。座って見上げると、天空に浮かぶ町のように見えた。各席にも似たようなランプがつり下がっているが、微妙に違う。
 そしてカウンターの壁にもランプが備え付けられていて、それぞれ独特な形をしている。ガラス瓶のようなもの、ガラスの三角帽子を被ったもの、四重に重なった寺院の屋根のようなもの、和紙でできた灯籠のようなもので、見ていて飽きがこない。
 至るところにコードが伸びていたが、それがまたレトロ感を醸し出している。
 店内には、アリアのような嫋やかな歌声が、パイプオルガンの音にのせて流れている。音量は小さく。鼓膜に届くその音は、岩に染み入る清水のごとくだ。
 銀縁の黒いタンブラーにスプーンとフォークと木の箸。そして、ワイングラスのような器に注がれた水が届いた。
 用事があるときはベルで店員を呼ぶ仕組みなのだが、ベルは男女が腕を組むおしゃれなデザイン。振ると鈴虫のような素敵な音色がする。しかも良く通る高い音を奏でたので、十メートルほど離れた場所にいた店員にも良く聞こえたようだ。
 見ると、席によってベルの形が違い、教会の鐘のような形の物もある。それは、コチンいう低く乾いた音を発した。
 壁を見渡すと、ずらりと絵が並んでいる。モノクロでえがかれたものもあれば、茶色い毛足の長い猫や青空などもある。
 届いた料理は、和風で涙型の陶器の皿に盛られていた。右の細い方にキーマカレーを盛られたオーストラリアの山状のごはん、上には半分に切られた半熟ゆで卵がのっていて、赤い粉とパセリのみじん切りがかかっている。珍しいのは、赤い山椒の実ににたなにかが卵にのっていたこと。卵はひんやりとして冷たい。
 真ん中手前のグラスには甘酢で味付けされた細切りのにんじん、左横に胡椒のかかったマッシュポテトとミニトマト。マッシュポテトはしっとりとした舌触りで、ジャガイモとミルクの優しい甘さがある。ミニトマトは熟しきったプラムと見まがえるほど濃い赤で、噛むと歯ごたえごよく、とても瑞々しい。
 残りの三分の一はリーフサラダ。ジュレ状の甘酸っぱいドレッシングがかかっている。カレーはしっかりとしたカラムマサラの味がして、一般的な日本のものとは少し違う。
 ごはんは白かったが、少量の雑穀が炊き込まれている。
あまり辛くないと思って口にしていたが、しばらく食べているうちに、結構口の中に辛さがたまっていさきた。

 コーヒーは、暖かみのある手触りで丸みのあるカップに淹れられてきた。縁は緑がかった青白い色合いで、所々に黒い斑点がある。縁はつるつるなのに胴体には縦に波が走るような模様がついていて、凹凸があった。とても凝った作りだ。
 ソーサーは木製で縁に溝が彫られていて、丸で太陽のようだった。
スプーンも木製で柄が細長く、丸くて小さいので、とても可愛い。
 香りは甘みを帯びた深い香りだ。中煎りの豆を使っているようだが、とても深みがあり、苦味が強い。酸味は主張せずに苦味のあとからついてきて、後味として舌の隅を撫でる程度。時が経つにつれて温度が下がると、苦味が引いて隠れていた酸味が顔を出してきた。後味が酸味から苦味に変わりっていく過程が楽しい。だんだんと自分好みの味へと変化していく。
 僕は、自分が終始左手をカップに添えて両手で飲んでいることに気がついた。無意識にそうしてしまうほど、肌触りが気に入ってしまっていた。
 帰りに入り口の雑貨を見て回ったが、同じカップは置いていない。もしあったら、買いたいと思っていたのに。
 その時気がついたのだが、茶色と白のチャコモリフクロウと薄茶色で白い顔をしたメンフクロウの二羽が、出入り口の脇にある奥ばったスペースに設置された二股の枝にとまっていた。
 なんと美しい姿だろうか。こんなにも近くでふくろうを見るのは初めてだったので、しばらくの間目惚れてしまった。
 たいへん趣があって、雑貨も、食器も、料理も、作り手の体温を感じさせるカフェだ。雑貨店としての利用だけでもOKらしいので、ぜひ探してほしいと思う。
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