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都立家政 ~かせいチャンに心がほっこり~

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 クリスマスとは関係ないイベントで食べようと、遠出をしてケーキを買いに来た僕は、初めて降りる都立家政駅の改札を出てすぐに町を見渡した。
 駅のすぐ脇に商店街が見えていたから、目当てのケーキ屋さんは、たぶんこの商店街のどこかにあるのだろう、と僕は推察しつつ時計を見ると、予定の時間にはまだ早い。ならばと思って、散策がてら適当に歩いてみることにして、商店街へと入っていく。
 すでに暦は12月、クリスマスイルミネーションに彩られて、季節限定の何かに巡り会えるのでは? と期待に胸を弾ませながら行くのだが、どこまで行っても日常の風景が続く。目的のケーキ屋さんを過ぎても、どこにもクリスマスを思わせる装いはない。
 たち戻って踏み切りの反対側にもいってみる。流行っている様子はないが、どことなく落ち着く雰囲気で、生活の暖かみを感じる町並だ。パンや衣類の無人販売店があって、のどかな空気が流れている。
 今時珍しいとても古めかしい建物が散見されるが、閉店したシャッター店舗なんかではなく、昔からこの町を見据えてきたのであろうちょうどよくしなびたお店(食品)。
 バングラデシュのお店のショーウィンドウからこちらを覗く小さな猫のぬいぐるみが不思議とかわいくて、しばししゃがんで眺めていると、不意にさっき見たカフェのことを思い出した。そこで行ってみることにした僕は、猫たちに別れを告げて踵を返す。
 店内は、ホワイト&オーカーのツートンカラーでとてもシンプルなデザイン。勾配天井が不思議とよいアクセントになっている。
 そこに据えられた照明が、飾られた白と紫の花束を優しく照らし出していて、いい意味で光の吹き溜まった雰囲気を醸し出していた。
 入店時には気がつかなかったが、入り口の壁に棚があって、狛犬の置物がある。
 縦長で奥行きのある店内は、入り口付近に丸テーブルの席とカウンター席、そして壁に四角い席が並んでいて、僕は勾配天井の席に座った。直感でその席を選んだのだが、天井と自分との距離が近すぎたので、一番奥の席を選び直した。真ん中の席にすれば、勾配天井と光の加減が醸し出す雰囲気に、居心地のよさを感じられたかもしれない。
 見ると、カウンターの奥にコーヒー豆の入った瓶が整然と並んでいて、白っぽい壁から浮き上がるように存在感を示している。
 コーヒーは、ライトロースト、ハイロースト、フレンチローストの三種で、それぞれ使われている豆の産地が違う。
 フレンチローストは久しぶりだと思って注文し、コスタリカ産の豆を選んだ。注文してから間もなく、豆を挽く軽快な音が響いたかと思うと、すぐにコーヒーが運ばれてきた。
 白い円筒形のカップを口に運ぶが、香りはとても弱い。口に含んだ瞬間、強い苦味が舌の上に広がる。深みがあって、甘みはほとんど無いように思える。さらりとした飲み心地で、一瞬の内に目が覚めるようだ。
 普段ここまで焙煎されたものは飲まないけれども、たまにはフレンチローストもいいなと思った。
 ずっしりとした苦味が後を引いて、甘味との相性がとてもよいのではないだろうか。そのまま甘味が欲しくなった僕は、自家製とうたわれたレアチーズケーキを注文して、コーヒーのおかわりもお願いした。
 レモンが乗ったレアチーズケーキは、おしとやかな甘みにレモンの酸味をほんのりと纏った、幼さが残りながらも微かに美しさが芽生え始めた味で、その甘みを流すためにコーヒーを一口飲むと、想像とは違う一体感が口腔に広がる。
 お互いが主張しながらもお互いを尊重し会うように相乗効果を発揮すると思いきや、レアチーズケーキはあくまで引き立て役に徹する様子で、苦味のよさを心地よさに変えた。
 流れてくる洋楽は常にスローテンポで、休息に没入させてくれる。その味わいに漫然としていると、お客さんが入ってきて我に返った。
 百五十円にタッチしたドル円相場が百三十五円へと一気に振れた頃であり、サッカーワールドカップ期間中で、日本代表が大勝利に沸き上がってから間もない時分だったから、為替でもうけ損ねた白灰色のスーツを着た女性の愚痴を言い、ブルゾンを着た銀髪の男性がサッカー談義に花を咲かせる。
 二人が立て続けに繰り広げるオーナーとの会話で現実に引き戻されながらも、それが地元に愛される喫茶店の良さかもしれないと思って、最後の一口を飲んで僕は席を立った。
 目当てのケーキ屋さんでは、予定になかったケーキも内緒で一つ買った。
 その帰り道、思うと今月のケーキ予定は目白押し。今日食べたレアチーズケーキに始まって、内緒のケーキをお夜食に食べる。そして明日は、みんなで今日買ったケーキを食べて、それから月後半はクリスマスケーキを二回食べる。
  とても甘いひと月になりそうな予感に、思わずにんまりと微笑んでしまう。何気に美味しそうなかせいちゃんを思い出して、かせいチャンの生カステラがあったら食べてみたい、と思う夕方だった。
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