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緒方宗谷

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二年生の一学期

第百三十一話 味の決め手

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 河原の中央まで来ると、務と春樹が手分けして持ってきた貸別荘の折り畳みテーブルやチェアーを組み立てて並べ、その上に鍋や飯盒の他、食器類を置いていく。そして最後に、前日のうちに西朋[スーパー]で用意しておいた野菜や水の入った白いトートバックを二人のリュックから取りだして、石の上に置いた。
 杏奈は、肘丈の袖を腕まくりするしぐさを見せて意気込む。
「成瀬さん、具材切るの大変でしょ。わたしたちに任せて」
「大丈夫だよ、ぱっぱ、ってやって、ぱっぱ、だから、わたし 出来るよ」
 そう言うと奈緒は、じゃがいもを取って右の手のひらで腰に押さえつけて、ピューラーでガタガタと引っかき始める。
 少し離れたところで石を抱えていた春樹が声をかけた。
 「意外に出来てる。でも洗ってない」
 「しつれいなやつ」
 そう吐き捨てながら、むき終わったじゃがいもに包丁を入れる。
「わ、わ、危なくない?」南が慌てた。
 奈緒は、慣れたふうに切ろうとするが、包丁を持つ手元はよろよろふらふらして心もとないし、添えた右手は動かないから、じゃがいもも安定していなかった。誰が見ても危なっかしいったらありゃしない。
 ゴズッ、と音がして切られた右側のジャガイモの塊四分の三が、どこかに発射される。
「あはは、でもいいよね。次いってみよう」と奈緒が笑う。
 無残に転がったじゃかいもをしり目に、今度は人参を取り、先ほどと同じように皮をむいて切り始める。
 務と一緒に、頭の半分くらいある大きさの石を運んでかまどを作っていた春樹が、奈緒のそばに寄ってきてコメントを述べる。
「皮をむくまでは上手いよね」
 奈緒は、ほめられていないのに頬を綻ばせた。
 男子二人は、人参が飛んでいかないように、まな板の周りに手で壁を作って見守る。しばらくして、いびつで大きさもまちまちな人参の塊が完成した。
「これを、お鍋に入れまーす」奈緒が楽しげに言った。
 その作業を繰り返したあと、突然奈緒が押し黙る。
 みんなが見ていると、この子は玉ねぎをトートバックに戻した。
「なんで戻すの?」南がまた出す。
「やだぁ、玉ねぎきらい」奈緒が渋い顔をして、南を睨み上げる。
「好き嫌いしないの、ほら、切って」
この子は「聞こえない」と無視をかます。
「好き嫌いばかりしてると、まだ病気になるよ。そんなのいやでしょう?」
「お母さんみたいなこと言うのね」そう言って奈緒は、玉ねぎを地面に放る。
「ああっ、なに捨てんの。玉ねぎ入れないとカレーにならないでしょ」
「逃がしてあげたの。また生えてくるから」
「こんな土の無いところに転がしたって根づかないでしょ」
「じゃあ、こうしてやる」
 そう言い放って、今度は遠くへと放る。






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