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緒方宗谷

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二年生の一学期

第百三十話 ログハウス

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 別荘は、丸太でできた本物のログハウスで、結構な大きさを誇っていた。敷地はきれいに手入れがなされていて、砂利が敷き詰められている。私道と敷地の境界に塀は無いが、境界線の右側から玄関までのアプローチは、不揃いで平らな石によって形成された小道になっていて、その小道の左側に広がる庭の道側四分の一に、全く雑草の生えていないしっとりとした黒々しい菜園が耕されており、そこには人参の独特な若い葉が綺麗に並んでいる。周りを囲む他人の敷地は鬱林と化していたから、そのコントラストが面白い光景だった。
 杏奈が、うっとりするような声を上げた。
「うわぁ、すてき。こういう別荘に昔からあこがれていたの。うちの田舎は両方とも都市部で、山も海も近くないし、小さいころから夢に見ていたのよ。いいわね、ここ。駅からそんなに遠くなくてバスで来られるし、急な山道も上らなくていいし」
 南が得意げな笑みを浮かべて頷く。
「この辺り、昔の別荘ブームで分譲されたらしいんだけど、所有者が何代も変わって、今はもうどれが誰のものだか分かんないんだって。だから、もう家建たないらしいよ。だからほぼ、プライベート林」
「どういうこと?」杏奈が訊く。
「ここの道、全部私道なの。だから、建築資材を搬入するためにトラック入れるとか停めるとかする場合、所有者の許可が必要なんだって。他にも上下水道とかガス管とか引くのにも許可が必要だしさ。でも、この土地分譲された時にそういう取り決めがなされないまま売却されちゃったから、わたしが昔ここに遊びに来た時点では、建てようにも建てられなくなってたらしいよ。だから今でもそうなんじゃないかな」
「登記簿見ればいいんじゃないの?」と務が疑問を持つ。
「手続きしてなければ、昔の所有者しか分からないよ。子供や孫が相続したにしても同じ住所に住んでいるとは限らないし。遊びに来た時そう聞いた気がする」
 玄関ポーチへと向かう南に、後ろから春樹が声をかける。
「ここは建ってんじゃん」
「知る必要のある所有者と連絡とれたんじゃない? それか昔からここには家があって、それを建て直しただけとか。それなら周りの所有者が分からなくなる以前に協議して使用方法を定めているだろうから、建てられるんじゃない?」
 南はそう言ってポーチへと昇る木造階段を上がって扉を開けると、仰々しくお辞儀をしながら手を室内へとむけて差し伸べた。
「皆さま、どうぞおあがりください。わたしが見つけた最高の別荘でのひとときを、心ゆくまでご堪能くださいませ」
 最初に入った春樹が白いバッシュを脱いで玄関へと上がると、すぐに左を向いて感心する。
「結構広いな。このダイニング、十畳くらいあるか。向こうにリビングもあるじゃん」
 みんなはぞろぞろと部屋の中央へと進んで、六人掛けのダイニングテーブルに荷物を置くと、奈緒はそのまま端っこに座って、「ちょっと一休み」と、和やかに微笑んだ。

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