FRIENDS

緒方宗谷

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二年生の一学期

🍭

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 春樹は子供のように瞳をキラキラさせて、細い通路を行き来する。
「黒電話どころじゃないな、箱に顔つけたような電話だ。あ、奥に蓄音機まである」
 おじいさんが、自虐を笑いに変えるように自分を語りだした。
「趣味で買っちゃうんだよ。もうやめようって思うけど好きだからやめらんねくて。昔は会社やっていたんだけど、もう譲っちゃったからさ。今は畑さやりながら、この店と向かいの二つやってんの。だいたいは借金のかた[手形]に持ってきたもんだけどね。前はあっちの店でやってたんだけど置ききんれなくて、こっちにも店開いちゃったってわけ。だからなんか買ってって」
 誰もがあいまいに笑みを浮かべて返す。
「どこから来たの? 東京から? 東京のどこ?」おじいちゃんがつっこんで訊いてきた。
「品川区です」務が答えた。
「へぇ、ここには観光で? なんにもないでしょ。昔は黒磯に分岐点があったから、どこへ行く列車も全部ここで停まったんだけれども、隣の那須に新幹線の駅ができて、こんなにさびれちゃった。そのうちいろんな機関が那須に行っちまうからね、そしたら余計寂しくなるよ。だから新幹線の駅作ろうって話もあったけんども、どうだろうね」
「せっかく図書館作ったのに、もったいないですね。でものどかでいい街ですよ」
「田舎だかんな」
 奥へと進んで行く奈緒に一緒についてきて、男物の手巻き式腕時計を見ていた杏奈が、耳元に唇を近づけて密やかに言った。
「このレトロな横丁だけじゃなくて、全体的にのんびりした空間ね。時間の流れが緩やかっていうか。移住する人が増えているって話もなんか納得。心が和らぐというか安らげる不思議な魅力があるわね。((あのおじいちゃんのなまりも可愛いし))」
「金があったら全部買いてぇ。どれもこれも掘り出し物じゃん」
 春樹が突然叫んだ。悩んだ様子で何度も店をぐるぐる回っていた彼は、途中から加わったおじいちゃんの電話の相手だったらしき標準語の若い男と一緒になってしばらく見学してから、結局何も買わずに一人で外に出た。それに呼応して奈緒たちも外に出ると、おじいちゃんにお礼を言って、五人で店をあとにした。
 奈緒が、おなか一杯といったふうに息を吹き出す。
「すごいなまりだったね。わたしは聞き取れなかった。南ちゃんは?」
「ん? 聞き取れたよ。昔キャンプした時にそばの畑にいたあのくらいのおじいちゃんのと比べると可愛いものだね。もう一つ一つの発音が日本語からかけ離れ過ぎていて聞き取れなかったもん。延々とろれつが回らないまましゃべっているみたいな感じで、完全に外国語状態」
 おじいちゃんの可愛いなまりに、みんなはハマった様子で思い出しては笑い合った。





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