FRIENDS

緒方宗谷

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二年生の一学期

🎀

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「おじいちゃんの野菜……」南の想いを馳せるような声が壁から染み出てくる。
「実はね、今日使った食器もお膳も、捨てようと思っていたのを恭介さんに止められて取っておいたものなのよ。いつかKUROISOダイニングを開いたら使うんだって。親戚が集まった時やなんかにもてなすのに使っていたものだから、べつに高いものじゃないけれど、夫婦そろって真剣に訴えるものだからとっておいたやつ」
「今日の料理は、お父さんも作れるのかな?」
「作れるはずよ。みんな教えたから。普通娘のほうが訊いてくるはずなのに、あの子ったら全然で、恭介さんのほうが熱心に電話してきたわ。何度も作って詩織に食べさせてみるけど、味が違うと言われるとか言って、タッパもって朝八時に来たことあったわよ。いつ東京を発ったら今ここにいられるのかって思ってびっくりしちゃったわよ」
「それで味はどうだったの?」声が弾んだ。
「完璧。恥ずかしい限りではございますが、わたしは娘の舌の教育には失敗した模様でございます」
 おばあちゃんの声が後半曇ったので、深々とお辞儀をしたのだろう。すぐさま二人が同時に噴き出す。
 笑うリズムに乗せて、おばあちゃんの声がした。
「ちなみに南、あなたが看板娘担当だったらしいわよ。詩織が、なんでわたしじゃないの?ってぼやいてた。まだ授かってもいなかったのに気が早いわよね、男の子だったらどうする気だったのかしら、恭介さん。でも今考えると、おかしな話よねぇ。黒磯料理を広めたいのなら、東京で紹介しないといけないのに、地元で地元料理食べてる地元住人に地元料理紹介してなんになるのかしらねぇ」
「まずは地元の活性化を目指したんじゃない? もし東京で美味しい黒磯料理食べたお客さんが興味を持って黒磯に遊びに来てくれたとしても、なんにもない寂れた街しかなかったら、幻滅しちゃうでしょ。今みたいに駅前もきれいじゃなかったし。そんな中でも黒磯に来て、ここでごはん食べていってくれる人なら、もともとこういうところに興味あった人なんだろうし、一発でファンになっちゃうだろうね」
「ああ、そういう見方もあるのね」
「わたし――」
 南が何かを話し始めた時に奈緒は、居間のふすまの向こうから杏奈が顔を出したことに気がついて我に返った。そして何食わぬ顔で杏奈に近づいていくと、「おまたせ」と言って、上がり框に座った。
 そこから眺めるダイニングの先には、煌々としたオレンジ色の光が満ちるキッチンが、かまくらのように構えられていて、その中から南とおばあちゃんの笑い声が響いてくる。二人の姿は見えなかったが、その光景は、とても穏やかで和やかなものであることだろう。だが奈緒にとって、微笑ましいと思える状況は、一瞬しか訪れなかった。
 その後、杏奈が戻って来たのち春樹、務とトイレの使用が続いて、その次に使った南が戻ってくるまで奈緒は、一人尋常じゃない尿意と戦う羽目になった。




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