FRIENDS

緒方宗谷

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二年生の一学期

🍭

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 大きなガラスで覆われた車内を見ると、男性店員が子供用バットのように長いへらを使って、黒くて大きな鍋をかき混ぜている。
 奈緒がそのさまをぽかんと眺めて言った。
「さっき、食べたのはここで買ったのか」
「でか、五右衛門風呂みたいだ」と南が驚いて車内に見入る。
「“いまなつ”収穫 したん だって」
「今夏、ね」
 二人が話していると、コーンをポップし終えた店員が、それをバットに移し替えてから話しかけてきた。
「今芽が出始める頃で、九月に収穫です。毎年そのサイクルで仕入れています。今見たように鉄の大鍋でポップさせる無添加のケトルコーンですので、もしよかったらどうぞ」
「さっき、食べ ま し た。美味し かった で す」
 体[てい]よく断った奈緒は、隣のパン屋さんの列に並んで、プラスチックのカップに入ったラスクと四枚入りのプレーンのクッキーを買って、美術部員へのお土産にすることにした。
 パン屋さんのテントをあとにした奈緒は、横道もなく短い道のりなのに、なぜか道に迷ってからなんとか美術部のテントまで帰り着つくと、そのまま中に入っていって、出迎えてくれた心愛へ諧和を求めるように微笑んだ。
「これ、お み や げ で す」奈緒が、プラスチックカップに入ったラスクと白い紙袋を渡した。
「ありがとう。みんなで一緒に食べようね。今いるお客さんのが終わったら、二宮さんと上原さんを休憩に回しちゃうから、今度は成瀬さんが接客お願いね」
「うん。そいじゃ、席空いてるから、南ちゃんも はがきと 花瓶 作りましょうよ」
 奈緒はそう言って、テーブルの上に置かれたプラスチックカップに手を伸ばした。
「お土産にあげたのに、真っ先に自分が食べちゃうの?」南がつっこむ。
「みんなで食べるやつだからいいの。ありゃ、これ甘くない。しょっぱいやつだ。なんか、この“フスティバル”はお塩推し なの かな? どれもお 塩 味だ。こっちはどうだろう」
 パンの耳で作った長細いこげ茶のラスクを一本食べると、今度は紙袋を開ける。
「六個あるから、一枚食べよ。はい、南ちゃんも。これはほんのり甘くて、ミルキーな感じだ」
「わたしはいいよ」
 バラのような模様の円盤のクッキーに視線を落とすと、「頑張ってる一年にあげて」と断った。
 承知した様子の奈緒は彩音とこよみに声をかけて、クッキーをテーブルに置く。そして、絵付けに悪戦苦闘する南に作品の作り方を教え、時折心愛たちにも手伝ってもらったり、意見を求めたりして、南が打ち解けられるように会話を弾ませる。
 この子に連れられた少女がここにやって来た時は、少し緊張した空気がテントの下にこもっていたが、今は楽しげでかろみのある空気だけが辺りを満たしていて、春のひだまりで夢寐しているかのような温かで幸せな時間が流れた。





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