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緒方宗谷

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二年生の一学期

第百九話 酵素玄米全部乗せ

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 飲食エリアには、広場を囲むように四つのテントと三台のキッチンカーが並んでいた。すでに多くの来場者が商品を手に闊歩しており、飲食を提供する四つのお店には行列ができている。
 広場に足を踏み入れるや否や、身の規矩を崩した奈緒は、跳ね返るようにたたらを踏んで二歩下るとバランスを立て直し、白い丸テーブルと椅子を一つ一つ指さして言った。
「あれ? さっきまでなにもなかったのに、色々と置いてある」
「晴れたからじゃない? 朝方まで降ってたみたいだし」
「そうか、家出た時ぽつぽつだったから、よかったねぇ?」横に腰から上を傾けて「中止にならなくてよかった ねぇ⤴?」と呼びかけて、南に返事を促す。彼女にも「ねぇ⤴」と答えさせ、漲らせた喜びを共有した。
「奈緒はお昼になに食べるの?」南が訊く。
「うーん、カレー」何故かふてぶてしく答えて、農家支援カレーのキッチンカーに並ぶ。
 ルゥをかけるだけと思いきや、なかなか時間がかかる。奈緒たちは三組目だったが、五分経っても順番が来ない。
 しばらくして、後ろからあまり面識のない男の先生の声がした。
「なくなっちゃう? これから学生たちが来るんだけど、なくなっちゃう?」
 二人が振り向くと、そこには濃いめのベージュの肌でぽっちゃりした中年の先生がいる。
 やさしい口調であるもののあまりに早いその話し方に、ボランティアの女性店員がシドロモドロして車の内をのぞき込む。
 驚いた表情を浮かべてその様子を見やっていた奈緒が、「危なかったね、人気あるんだ」そう言って列を振り返り、さらに驚く。「長いっ、見て南ちゃん、あっちまで伸びてる」と叫ぶと、人数を数えるように視線で列をなぞりながら、広場を貫いてむこう側の植え込みのほうにいる最後尾を見やった。
 南は、「急に人が増えてきたね。もうごった返し始めてるじゃん」特別驚いた様子もなくそう答える。
 メモ帳を持ったボランティアの女性が、注文を取りに来たので、「“かれい”をくださいなっ」と、奈緒が元気に伝えた。
「オリジナルはビーガンなのですが、卵とチーズをトッピングしてスペシャルにも出来ます」
 奈緒は、「写真のやつですか? トマトと 卵と あれ ですか?」そう言って指さす。
「その日によって違いますので、一概にあれと同じわけではないですが」
「で も、す ぺ しゃ る に、し ま す」
「今のお時間は酵素玄米になっちゃって、白いご飯じゃないんですけれど大丈夫でしょうか」
「はい。あと、かれい の とるて ぃ ー や を ください」
「カレーのトルティーヤは、カレーをかけるやつですがよろしいですか?」
「カレーをかけるやつ?」





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