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二年生の一学期
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奈緒が辺りを見渡す。
「瑠衣ちゃんは?」
「流川はいないよ。あの子はA編成に組み込まれたから」
「A?」
「あー…レギュラーってこと。BとCは準レギュみたいなもんで、大会で金とっても全国には行けないの」
「へぇ、瑠衣ちゃんのフルートってすごいのね」
「どちらかって言えば、バイオリンで選ばれたんだよ。あの子、歴代唯一の弦だから、なにかしらに使えるんじゃない? 合奏にフルートで参加して、バイオリンでソロすれば演奏に幅出るし、重宝されるんでしょ。合奏で聞いたことないけど」
「ふーん、分かんないけど、いいやね。それより人まばらだね。放課後気合い入れて、牛乳パックではがき作って持ってきたのにね。お客さん来るかな」
「まあ、まだオープン前だからね。昼前には混み始めるはずだよ」
美術部コーナーに向かって右側にある積み木のワークショップを見やりながら続ける。
「成瀬さんとこは、なにするの?」
「牛乳パック売る」
「ちがうでしょ」心愛がつっこんだ。
「そうだよ、売れないでしょそんなもの」陽菜子は店先を見渡し、「牛乳パックで作った絵はがきやーオブジェ? やなんか展示しているんだね。それに絵を描くワークショップもやるんだ」。
「そう。二百円だからしていって?」奈緒がお願いすると、「考えとく」とそっけない返事が返ってきたので、さらに続けて「せ ん ぱ い め い れ い で お ね が い し ま す」と一年生たちに向かって深々と頭を下げた。「身 体 障がい者を 助けると思って、お願い し ま す。売り上げは全て、美術部で、使わせて、いただきまする」
「ずいぶんととぼけた感じで言ったけど、なんか断りにくい言い方」と陽菜子が笑う。「いいよ、みんなはしなくて。代わりにわたしがやっておくから」
「やったぁ、一人ゲット」奈緒がはしゃいだ。そして、「集合しなきゃ」と言う陽菜子に別れを告げ、去って行く後ろ姿に向かって手を振った。吹奏楽部の集団が見えなくなると、満足げに口角を上げて、木のベンチの真ん中に座る。その時すでに、オープンを待ちわびるお客さんがちらほらと東屋の周りでスマホをいじり始めていて、それがこの子の双眸にはっきりと映った。
「おおー、人増えてきた。陽菜ちゃんの言った通りだ」
🖌️小山内心愛🎨
作画:緒方宗谷&AIイラスト
「瑠衣ちゃんは?」
「流川はいないよ。あの子はA編成に組み込まれたから」
「A?」
「あー…レギュラーってこと。BとCは準レギュみたいなもんで、大会で金とっても全国には行けないの」
「へぇ、瑠衣ちゃんのフルートってすごいのね」
「どちらかって言えば、バイオリンで選ばれたんだよ。あの子、歴代唯一の弦だから、なにかしらに使えるんじゃない? 合奏にフルートで参加して、バイオリンでソロすれば演奏に幅出るし、重宝されるんでしょ。合奏で聞いたことないけど」
「ふーん、分かんないけど、いいやね。それより人まばらだね。放課後気合い入れて、牛乳パックではがき作って持ってきたのにね。お客さん来るかな」
「まあ、まだオープン前だからね。昼前には混み始めるはずだよ」
美術部コーナーに向かって右側にある積み木のワークショップを見やりながら続ける。
「成瀬さんとこは、なにするの?」
「牛乳パック売る」
「ちがうでしょ」心愛がつっこんだ。
「そうだよ、売れないでしょそんなもの」陽菜子は店先を見渡し、「牛乳パックで作った絵はがきやーオブジェ? やなんか展示しているんだね。それに絵を描くワークショップもやるんだ」。
「そう。二百円だからしていって?」奈緒がお願いすると、「考えとく」とそっけない返事が返ってきたので、さらに続けて「せ ん ぱ い め い れ い で お ね が い し ま す」と一年生たちに向かって深々と頭を下げた。「身 体 障がい者を 助けると思って、お願い し ま す。売り上げは全て、美術部で、使わせて、いただきまする」
「ずいぶんととぼけた感じで言ったけど、なんか断りにくい言い方」と陽菜子が笑う。「いいよ、みんなはしなくて。代わりにわたしがやっておくから」
「やったぁ、一人ゲット」奈緒がはしゃいだ。そして、「集合しなきゃ」と言う陽菜子に別れを告げ、去って行く後ろ姿に向かって手を振った。吹奏楽部の集団が見えなくなると、満足げに口角を上げて、木のベンチの真ん中に座る。その時すでに、オープンを待ちわびるお客さんがちらほらと東屋の周りでスマホをいじり始めていて、それがこの子の双眸にはっきりと映った。
「おおー、人増えてきた。陽菜ちゃんの言った通りだ」
🖌️小山内心愛🎨
作画:緒方宗谷&AIイラスト
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