FRIENDS

緒方宗谷

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二年生の一学期

第百二話 なまこ

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 ここは、洗足池駅の目の前に広がる大きな洗足池公園。家で朝ごはんを食べた奈緒は、反対側からやって来て中に入ると、駅側にあるボート乗り場のすぐそばにある藤の木が植えられ場所まで迷うことなく歩いて行った。そこには、藤の花が散見される格子状の天井になっていて、その下には背もたれの無いベンチがいくつも並んでいる。この子はそこに馬乗りで座り、いつになく真剣な面持ちで筆を走らせていた。
「なおちーん」
 遠くから裏声めいた甘い声がして奈緒が振り返と、Vネックで灰色のセーターに包まれた腕を振って駆け寄てくる瑠衣がいる。
「やっぱりなおちんだぁ。おはよう、なにしているのぉ?」
「瑠衣ちゃん、おはよう。絵、描いてた。こんなところで会うなんて、奇遇だねー」
「うん、この間、公園から出てきて駅にはいっていくなおちん見たから、今日もいるのかなって思って見に来たのぉ。それでなに描いているのぉ?」
「鯉」
「ああ、びっくりした。なまこかと思った」
「なんでなまこ? ウケる」奈緒はけらけら笑ってから、「瑠衣ちゃんはよく来るの?」と訊き返す。
「ううん、家は近いけどね。なおちんいるかなって思って来てみただけぇ。ほんとはこの間見た時に声かけられればよかったんだけどぉ、バイオリン教室に行くところだったから諦めたのぉ。それより、その緑のリュックなーに? いつもと雰囲気違―う。洗足池にはよく来るのぉ?」
「二回目? この間、この公園 を 思い出して、来てみた。 絵手紙描くからなにかないかなぁって」
 瑠衣は「ふーん」と呟いて、詰襟の白いワイシャツを直しながら不思議そうに辺りを見渡す。
「小沢さんはいないの?」
「いない。なんで?」
「学校で一緒に過ごせないんだから、休みの日に誘って遊べばいいのにって……」
「そうか、気がつかなかった」
「言ったよ、わたしぃ」
「そうだった、もう忘れた。あーあ、だめだぁ、わたし」
 奈緒が泣きそうな表情を見せると、瑠衣が「よしよし」と頭を撫でて慰める。そして残念そうに「小沢さんはいないだね」と、言葉の意味を理解しようとするかのように言った。そして続ける。
「でも、もう半分以上が散ったっていっても、まだ花が咲いている桜の木に囲まれているしぃ、見上げると、ちょっとだけど藤の花もあるでしょう? なのに、なんで描いているのが黒い鯉なのぉ? なおちんのチョイス最高におもしろーい」



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