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二年生の一学期
🐿️
しおりを挟む奈緒は、意外そうに茶髪の彼を見つめる。
「春樹君は最近C組に来ないよね。前は毎日来て 務君と話して たのに」
「ああ、奈緒が心配で来てたんだよ。つっちーとも話して、もう奈緒は安心だなって結論に至った」
「でも南ちゃんが心配」
「あー、そうか? 人一倍友達作る努力しよーってやつじゃないけど、一人でいて寂しがるやつでもないぜ。そもそもバイトとか家事とかで忙しいだろ」
悩んだ様子の奈緒が訊く。
「さっき、一年の彩音ちゃんから、南ちゃんと仲いいわたしとお喋りしたら、友達がひいたって言っていたの。だから、わたしに、南ちゃんと 付き合わないで ほしいです、って。うそだよね、そんなの」
「ああ、あながちうそでもないかもな。後輩から見たら、一年違うだけでだいぶ大きく見えるから、委縮しちゃうんだろ。おんなじ二年でも、あいつを怖がってる女子だっているだろうし。そもそも男子だってビビるぞ、奈緒が来るまで俺もつっちーも接点ねーし。クラスの中で異色の雰囲気あったし。トゲトゲしてたっていうか、話しかけんなオーラ出してた感じ。まあ、あんな背景背負っちゃってたら、仕方ねーけど」
「今も出してる」
「ああ、そうしないと惨めになると思ってんじゃないかな。貧乏とか父親のこととか引け目があって、自分の存在を肯定できないっていうかなんていうかさ。周りに牙むけてるって程じゃないにしても、弱みを見せないようにしないと見下されかねねーじゃん」
「春樹 君に し て は、話が むずか しい」
「俺をなんだと思ってるんだよ。察しの通り、つっちーの受け売りですけど」
奈緒は、だろうねと言った様子で小さく二回頷いてから、南に視線を向ける。
「変な噂、流れてる?」
「噂?」
奈緒は言葉を返さず、じとっと春樹を睨みつける。
「お、南の台の試合が終わった。俺もしてこよ」
そう言った彼は、バスケットボールを奈緒に渡して、球を弾く乾いた音の中に走り込んでいく。
噴水が沸くように急に笑顔になった奈緒が立ち上がろうとすると、再び彩音が駆け寄って来た。
「成瀬先輩、順番ですよ。先生が呼んでます」
奈緒が見やると、野口先生が手招きをする。
「成瀬、前までは大目に見てやっていたけど、他のクラブの邪魔をするのはよせ。風紀が乱れるし、どっちのクラブにも迷惑だからな」
国語の教師のはずだが、体育教師のような口調だ。
奈緒は、不満そうにバスケのボールをステージの奥の隅に転がすと、渋々立ち上がってスタート位置へと向かう。でんぐり返しの準備をして再度南のほうを見ると、彼女は春樹を含めた数名と一緒になって小学生のようにはしゃぎまわっていた。
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