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一年生の三学期
第八十八話 不動前のコンビニで
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日曜日の朝、楽しげな奈緒が不動前駅に歩いて行くと、そこには制服姿の南と杏奈が待ち構えていた。東京において桜の開花発表はいまだなされていなかったが、それでもこの辺りの桜の木の三、四割の花が咲きはじめる温かな陽気となった本日は、品川区の高校バスケ部ベスト8が集まって開催されている一年生大会の二日目で、ベスト4決定戦が行われる日だ。
建て替えを控える小学校の門前を歩く奈緒を見つけるや否や、南が大きな声で急かす。
「奈ぁ緒ー、おーそーいー。約束の十時過ぎてるよ、どこ行ってたの、改札から出てこないでそっちから来るなんて」
「言ったよ、十時過ぎますって」
「そうだけど……どうしたの? なんで駅から出てこずに歩いて来たの?」
「えへへ、お昼ごはん買った。お母さんのファミコンを借りまして、グーゴルマップ調べたら、新しくできたパン屋さんを見つけました」
そう答えて、お地蔵さんのトートバッグを持ち上げて見せる。
それをのぞき込む南が疑問を持った。
「ん? 何時オープン?」
「十時」
「最初の試合は十時からなのに十時集合で、しかも少し遅れるって言ってたのって、まさかパンのためじゃ……」
「うふふ、ひみつ」奈緒が意味深に笑った。
「それ以外にないじゃん」
「あら~、ばれたぁ?」
意外そうな顔で驚くこの子に、少し心外な様子の南が訊く。
「どれだけ買ったの?」
奈緒が見せたエコバックの中をのぞいて数え、言葉を繋げる。
「これだけ? 五個しかないじゃん。奈緒にしては少ないね」
「うん。小さなお店で 二人しか入れない。それで わたしが入ったら急に並んで、あららって焦っちゃった。でもいいの。お夕食に帰りも買うの。帰りに一緒に買いに 行こ うね。赤いタイルのパン屋さん。お姉さんが“三月一月”にオープンしましたって“って” 言ってた」
「三月一日ね」
「うん。開店するまで怒涛の忙しさで、今に至ります。だからわたしは、まだ一カ月も立っていないのですねって伝え ました。あと、シュールな猫も二匹か三匹あって、また見に行きたい」
「猫? 店内に」
「うん。でもこうしてこうして」とジェスチャーするが、奈緒は真意を伝えられない。
建て替えを控える小学校の門前を歩く奈緒を見つけるや否や、南が大きな声で急かす。
「奈ぁ緒ー、おーそーいー。約束の十時過ぎてるよ、どこ行ってたの、改札から出てこないでそっちから来るなんて」
「言ったよ、十時過ぎますって」
「そうだけど……どうしたの? なんで駅から出てこずに歩いて来たの?」
「えへへ、お昼ごはん買った。お母さんのファミコンを借りまして、グーゴルマップ調べたら、新しくできたパン屋さんを見つけました」
そう答えて、お地蔵さんのトートバッグを持ち上げて見せる。
それをのぞき込む南が疑問を持った。
「ん? 何時オープン?」
「十時」
「最初の試合は十時からなのに十時集合で、しかも少し遅れるって言ってたのって、まさかパンのためじゃ……」
「うふふ、ひみつ」奈緒が意味深に笑った。
「それ以外にないじゃん」
「あら~、ばれたぁ?」
意外そうな顔で驚くこの子に、少し心外な様子の南が訊く。
「どれだけ買ったの?」
奈緒が見せたエコバックの中をのぞいて数え、言葉を繋げる。
「これだけ? 五個しかないじゃん。奈緒にしては少ないね」
「うん。小さなお店で 二人しか入れない。それで わたしが入ったら急に並んで、あららって焦っちゃった。でもいいの。お夕食に帰りも買うの。帰りに一緒に買いに 行こ うね。赤いタイルのパン屋さん。お姉さんが“三月一月”にオープンしましたって“って” 言ってた」
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