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緒方宗谷

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一年生の三学期

第八十六話 暗号解読

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 三月に入って最初の月曜日。二月に行われた期末テストの答案返却ラッシュが、一時間目から始まった。黒板の前に立つ岡野先生が、一人一人生徒の名前を読んで、それぞれに取りに来させて返していく。
 最後の生徒に答案を返し終わった先生を見て、奈緒が手を挙げて声を張った。
「先生、わたしのが かえりませんっ」
「ん、ああ、成瀬のはあとでだ。なんて書いてあるのか聞き取り調査をしてから、答え合わせをする」
 奈緒は元気よく「はい」と答えた。
 そしてすぐに後ろを向いて、国語の答案用紙を眺めていた杏奈に声をかける。
「なんでわたしのだけあとなんだろう。早くしてほしいね」
 すると、岡野先生が答える。
「お前のは解読が必要だろう。いつもやってるじゃないか。今日から放課後は、全教科の解読作業が終わるまで居残りだからな」
「うへぇ。やだあ。どうしよう、わたし。今日体調悪いから、帰ろうかな? 先生、やっておいて く だ さ い」
「ふざけんな。あの意味不明な回答どう読めっていうんだよ。考古学者でも無理だと思うぞ、ほとんど暗号解読だからな。CIAでも呼んでこないと無理だ」
 クラス中に笑いが沸く中で、この子が恥ずかしそうに続ける。
「えぇ~、ちょっちょっちょ、ちょっちょっちょ、って。こう やってこう やって休んで、こう やってこう やって 休めばいいのにー」
 指で何かをつまんで右に三回動かしては、お昼寝するポーズを繰り返し、なんとか言いたいことを伝えようと、あれやこれやと言葉を探す。
 ようやく伝わって、杏奈が言った。
「まとめてやらずに、ちょっとずつしてくれればいいのにってこと? たぶん無理だよ。先生たちも忙しいし。特にこの時期は、終業式や卒業式も重なるでしょう? そこに答え合わせがあって、成瀬さんの解読作業ってなると、もう首が回らないんじゃないかしら」
「ああ」と岡野先生が頷く。「もう戦場だからな。せめて字だったいいんだけど。幼児の落書きみたいな文字が多いから、大変なんだよ」
「えへへ。ごめんなさい」奈緒が謝る。「わたしは、こんなにも迷惑かけていますけど、大勢の人に支えられて いるから がんばれ ま す。先生、ありが とう」
「いや、君の頑張りが一番だよ。実際、こんなんでほとんど赤点取らないんだから、すごいよな。みんなも人間の脳の偉大さをまざまざと見せつけられるだろ。半分取られて、まだそこら辺より頭いいんだぞ」





 
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