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一年生の三学期
第八十五話 同い年
しおりを挟む長いこと続いた無言を打破したいのか、杏奈がなんとか話題を変えようとして、必死に言葉を探す。
「それより、お酒もたばこもやめたほうがいいよ。百害あって一利なしだよ。お肌にも影響するだろうし、おいおい体にも悪い影響が必ず出ると思うし」
「うん、もう吸ってないよ。高校入る前にやめた。みんな、向こうからやって来たってことは、うちにも行ったんでしょ?」南が訊く。
誰も答えない。それを見届けてから続ける。
「びっくりしたでしょ。うちのお父さん見て。恥ずかしくて大きな声じゃ言えないけど、アルコール中毒なんだよね。昔はあんなんじゃなかったんだけど、働いていたレストランも辞めちゃって、いつの間にか飲んだくれるようになっちゃった。一度は病院にも行ったんだけど続かなくて、もう再起不能だと思う」
「お父さんの世話しながら高校に通ってたんだ、今まで大変だったね」杏奈の言葉が、不意にしぼむんでゆく。
務が神妙な面持ちで口を開いた。
「小沢さんには申し訳ないようなことを言うかもしれないけれど、あの環境に身を置かないほうがいいと思う。お父さんには悪いけれど病院に入ってもらって、小沢さんは、おばあちゃんのうちに住んだほうがいいと思う。あんな感じじゃ、お父さんの世話は小沢さんが一人で全部やっているんじゃないの? 炊事洗濯掃除まで全部。ある意味ヤングケアラーってことでしょ。やっている本人には、そんな意識はないかもしれないけれど、とても過酷な生活だと思うよ。本来僕らは、学業と遊びにまい進していないといけない年頃なのに、家事に追われているんでしょ。バイトだって週四とか五で、しかも結構長い時間しているじゃない。確か、土日も入っているみたいだし。そんなの高校生が過ごす環境じゃない」
「そうだよ」杏奈が頷く。「病気とか事故とか生まれつきなら、周りの協力ももらいつつ、ある程度お世話するのは仕方がないのかもしれないけれど、お酒でしょ? 可哀想だけれど自業自得だと思う。勉強する時間も遊ぶ時間もないんじゃ、小沢さんの将来にかかわるよ。バイトしているのに、そんなに使ってる感じしないってことは、家のために働いているってことだよね。きついこと言うようだけれど、お父さんとは離れた方がいいと思う」
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