256 / 312
一年生の三学期
🍻
しおりを挟む
寝ぐせ大爆発でうまいことウルフカットみたくなった後頭部に手を回してそこを撫で、首筋に置いてさすりながら、目の色に後悔らしきものを浮かべて、父親が続ける。
「心配してないわけじゃねーよ。そりゃ行くよ、行きますよ。でも飲むもん飲まねーといけねーだろ? 普通。助けに行くのはやぶさかではないですよ、俺だって。酒さえ買ってきてくれれば、すぐにだって行きますよ」
奈緒が、ほっぺを膨らませる。
「今すぐいかないと、えいえいって 怒るよ。ぱんすか叩いて、こうこうって、こうってやって連れて行き ますよ」
縄でぐるぐるにするジェスチャーを見せると、おじけづいた様子の父親が、言い訳をするように愚痴をこぼした。
「そもそも、南が悪いんだろ、補導されたのは」
すぐに務が答える。
「南さんは、自分は無実だと言っているんですよ」
「そうじゃないよ。あいつ、家の金全部隠しやがった。この間、密かに買っておいた一升瓶も隠しちまいやがってさぁ。いろいろ探したんだけど、どこにもねーでやんの」
「ちゃんと探して! きっとあるからっ」奈緒が励ます。
「探した探した。トイレのタンクも押し入れの中も天井裏も。畳だって全部ひっくり返して探したんだぞ」
「へそくりじゃないんだから、ばかじゃん」わざとではないのだろうが、奈緒が変なイントネーションでつっこむ。
「いや、床下収納があるかもしれないだろ?」
顔をしかめていた奈緒が、なるほどという顔に表情を変え、
「ほんとだ。頭いい」
「だろ」父ちょっと照れる。
務が、申し訳なさそうに申し出た。
「こんなに古いアパートの二階の、しかも畳の下に床下収納なんてありませんよ」
父親は否定せず、「今思うとな、確かにそうだ」腕を組んで二度も頷く。そして、恨み顔で続けた。
「あの野郎ー。南のやつ早く帰って来いよ。通帳とかカードとかどこ隠してんだよ。もうしょうがねーよ、助けに行かない。二、三日豚箱入って、頭冷やせってんだ」
寝ぐせが神業のごとく決まった無造作ヘアをぼりぼりかきながら吐き捨てた。そして、四人に向かって、「しっしっ」と手のひらをぶらつかせて、怫然とした様子で言い放つ。
「さあ、帰った帰った。酒も金も出さないやつに用はねぇよ。俺は酒探しで忙しいんだ。もう帰れ、邪魔してくれんな」
言い終わると、肩が縮こまるほど大きな音を立ててドアを閉める。
四人は、受けた衝撃から生ずる動揺を隠しもしない表情で、その場に立ち尽くして閉ざされたドアを見つめていた。
「心配してないわけじゃねーよ。そりゃ行くよ、行きますよ。でも飲むもん飲まねーといけねーだろ? 普通。助けに行くのはやぶさかではないですよ、俺だって。酒さえ買ってきてくれれば、すぐにだって行きますよ」
奈緒が、ほっぺを膨らませる。
「今すぐいかないと、えいえいって 怒るよ。ぱんすか叩いて、こうこうって、こうってやって連れて行き ますよ」
縄でぐるぐるにするジェスチャーを見せると、おじけづいた様子の父親が、言い訳をするように愚痴をこぼした。
「そもそも、南が悪いんだろ、補導されたのは」
すぐに務が答える。
「南さんは、自分は無実だと言っているんですよ」
「そうじゃないよ。あいつ、家の金全部隠しやがった。この間、密かに買っておいた一升瓶も隠しちまいやがってさぁ。いろいろ探したんだけど、どこにもねーでやんの」
「ちゃんと探して! きっとあるからっ」奈緒が励ます。
「探した探した。トイレのタンクも押し入れの中も天井裏も。畳だって全部ひっくり返して探したんだぞ」
「へそくりじゃないんだから、ばかじゃん」わざとではないのだろうが、奈緒が変なイントネーションでつっこむ。
「いや、床下収納があるかもしれないだろ?」
顔をしかめていた奈緒が、なるほどという顔に表情を変え、
「ほんとだ。頭いい」
「だろ」父ちょっと照れる。
務が、申し訳なさそうに申し出た。
「こんなに古いアパートの二階の、しかも畳の下に床下収納なんてありませんよ」
父親は否定せず、「今思うとな、確かにそうだ」腕を組んで二度も頷く。そして、恨み顔で続けた。
「あの野郎ー。南のやつ早く帰って来いよ。通帳とかカードとかどこ隠してんだよ。もうしょうがねーよ、助けに行かない。二、三日豚箱入って、頭冷やせってんだ」
寝ぐせが神業のごとく決まった無造作ヘアをぼりぼりかきながら吐き捨てた。そして、四人に向かって、「しっしっ」と手のひらをぶらつかせて、怫然とした様子で言い放つ。
「さあ、帰った帰った。酒も金も出さないやつに用はねぇよ。俺は酒探しで忙しいんだ。もう帰れ、邪魔してくれんな」
言い終わると、肩が縮こまるほど大きな音を立ててドアを閉める。
四人は、受けた衝撃から生ずる動揺を隠しもしない表情で、その場に立ち尽くして閉ざされたドアを見つめていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
DEVIL FANGS
緒方宗谷
ファンタジー
下ネタ変態ファンタジー(こども向け)です。
主人公以外変態しか出てきません。
変態まみれのちん道中。
㊗️いつの間にか、キャラ文芸からファンタジーにジャンル変更されてたみたい。ーーてことは、キャラの濃さより内容が勝ったってこと?
ローゼ万歳、エミリアがっくし。
でも、自信をもって下ネタ変態小説を名乗ります。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
思春期ではすまない変化
こしょ
青春
TS女体化現代青春です。恋愛要素はありません。
自分の身体が一気に別人、モデルかというような美女になってしまった中学生男子が、どうやれば元のような中学男子的生活を送り自分を守ることができるのだろうかっていう話です。
落ちがあっさりすぎるとかお褒めの言葉とかあったら教えて下さい嬉しいのですっごく
初めて挑戦してみます。pixivやカクヨムなどにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる