253 / 410
一年生の三学期
🍺
しおりを挟む
「だから、酒。酒は百薬の長っていうだろ。酒さえ飲めば治るから。な」
誰も何も答えない。発言の内容を精査して咀嚼し、理解して飲み込もうとしているようだ。更につらそうなさまを見せつけるためにアピールしたいのか、表情を苦痛に歪めて続ける。
「はぁはぁ、もう堪えられそうもない、このままでは俺はだめになってしまう。だから、南のためにも頼みを聞いてくれないか?」
迫られた奈緒が、思わず返事した。
「はいっ」
「ちょっと行って、コンビニでビール買ってきてくれ」
一同「は?」
「いや、だからビールだって。いろいろあって今必要なんだよ」
父親は、ちょっと垂れた目を血走らせて続ける。
「今ちょうど晩酌しようと思って缶詰開けたんだけどよ、ねーんだよ、酒が。これじゃあ、肴食えねぇじゃん。娘のために警察と対峙するのに腹すかしていたら、対決になんねぇだろ。それには一にも二にもまず酒だろう」
大きく震える手を出してにやける。そのさまは恍惚に満ちていて、まだ飲まぬ酒から得た酔いに浸っているかのようだ。
「それじゃあ、しょうがねぇな。自分で買ってくるよ。ほれ、金よこせ」と南の父。
ドン引き状態の四人の中から、春樹が声を上げる。
「アル中じゃん」
「ばか、ちげーよ。酒なんていつでもやめられるんだよ。でも今日は仕方ねぇだろ。警察署とかに出向かなきゃなんねぇんだからさ。景気づけに一杯やんなきゃな。一杯だけだよ、一口飲んだら、出発するからさ」
務が心配して言った。
「お酒飲むのやめたほうがいいですよ。飲みすぎは体に毒ですし。もしよろしかったら、僕がお茶入れますから、それ飲んだら警察に行きましょう」
「うん。お酒 なんかより、南ちゃん助けたい。南ちゃんが戻って き た ら 訊けばいいよ、きっと。違うかな?」
奈緒が追随すると、杏奈と春樹も頷く。
南のお父さんは、あんぐりと開けた口を痙攣させながら、信じられないといった様子でみんなを見やり、激しく襲う禁断症状を押さえ込むように、両手で左右の二の腕を掴んで震えだしていた。
誰も何も答えない。発言の内容を精査して咀嚼し、理解して飲み込もうとしているようだ。更につらそうなさまを見せつけるためにアピールしたいのか、表情を苦痛に歪めて続ける。
「はぁはぁ、もう堪えられそうもない、このままでは俺はだめになってしまう。だから、南のためにも頼みを聞いてくれないか?」
迫られた奈緒が、思わず返事した。
「はいっ」
「ちょっと行って、コンビニでビール買ってきてくれ」
一同「は?」
「いや、だからビールだって。いろいろあって今必要なんだよ」
父親は、ちょっと垂れた目を血走らせて続ける。
「今ちょうど晩酌しようと思って缶詰開けたんだけどよ、ねーんだよ、酒が。これじゃあ、肴食えねぇじゃん。娘のために警察と対峙するのに腹すかしていたら、対決になんねぇだろ。それには一にも二にもまず酒だろう」
大きく震える手を出してにやける。そのさまは恍惚に満ちていて、まだ飲まぬ酒から得た酔いに浸っているかのようだ。
「それじゃあ、しょうがねぇな。自分で買ってくるよ。ほれ、金よこせ」と南の父。
ドン引き状態の四人の中から、春樹が声を上げる。
「アル中じゃん」
「ばか、ちげーよ。酒なんていつでもやめられるんだよ。でも今日は仕方ねぇだろ。警察署とかに出向かなきゃなんねぇんだからさ。景気づけに一杯やんなきゃな。一杯だけだよ、一口飲んだら、出発するからさ」
務が心配して言った。
「お酒飲むのやめたほうがいいですよ。飲みすぎは体に毒ですし。もしよろしかったら、僕がお茶入れますから、それ飲んだら警察に行きましょう」
「うん。お酒 なんかより、南ちゃん助けたい。南ちゃんが戻って き た ら 訊けばいいよ、きっと。違うかな?」
奈緒が追随すると、杏奈と春樹も頷く。
南のお父さんは、あんぐりと開けた口を痙攣させながら、信じられないといった様子でみんなを見やり、激しく襲う禁断症状を押さえ込むように、両手で左右の二の腕を掴んで震えだしていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-
橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。
順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。
悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。
高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。
しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。
「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」
これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる