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一年生の三学期
🐿️
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務が言いにくそうに口を開く。
「南さんが補導されたんですが、理由とかなにか聞いていませんか?」
父親は絶句して固まる。しばらく四人が待っていると、低いながらもよく通った色気のある声を廊下へ向かって響かせる。
「補導? 警察にか。それじゃあ、南の野郎、今日帰ってこねぇのか」
顔からみるみる血の気が引いて、あたかもこの世の終わりを目の当たりにしたかのような絶望ぶりに表情が覆われた。
「警察の方が、何度も電話したけど出ないっていうんですが」務が付け加える。
「電話? そんなのかかってきてないぞ。なにかの間違いなんじゃないか?」
四分の三くらい開いたふすまの向こうを見やるが、その動作だけでも息が上がって、苦しそうだ。
急に胸を押さえた父親は、悪心を堪える表情を見せて、「うっ、うぐぅ」と嘔吐いてしゃがみ込むと、蹲って震えだした。
「手も足も痙攣してる。やっぱり救急車を――」
杏奈の言葉を、父親が苦しみを堪えて無理した口調で遮る。
「心配ない。確かに不治の病ではあるが、すぐにどうこうなるってもんでもないんだ。それに、治す手立てはある。君たちが協力してくれさえすればの話だがね。俺は、まだ高校生の南のためにも死ぬわけにはいかないんだ。あの子が更生して結婚して子供を産んで、幸せになったところを見届けるまでは頑張らなければ」弱々しく微笑んで「やっぱり、父親としては、結婚を申し込んできた男の顔をぶん殴ったり、孫の顔を見たりしたいだろ?」と問いかける。
「出来ることならなんでもやります。だから言ってください」
「ありがとう」
ピアノのように音階がはっきりとした口調だ。そして父親は、勿体つけるようにしてから、吐息が産毛を優しくなでるようなビターで甘い声で、続けて言った。
「とりあえず、、、酒買ってきてくれないか?」
「……」[一同]
「南さんが補導されたんですが、理由とかなにか聞いていませんか?」
父親は絶句して固まる。しばらく四人が待っていると、低いながらもよく通った色気のある声を廊下へ向かって響かせる。
「補導? 警察にか。それじゃあ、南の野郎、今日帰ってこねぇのか」
顔からみるみる血の気が引いて、あたかもこの世の終わりを目の当たりにしたかのような絶望ぶりに表情が覆われた。
「警察の方が、何度も電話したけど出ないっていうんですが」務が付け加える。
「電話? そんなのかかってきてないぞ。なにかの間違いなんじゃないか?」
四分の三くらい開いたふすまの向こうを見やるが、その動作だけでも息が上がって、苦しそうだ。
急に胸を押さえた父親は、悪心を堪える表情を見せて、「うっ、うぐぅ」と嘔吐いてしゃがみ込むと、蹲って震えだした。
「手も足も痙攣してる。やっぱり救急車を――」
杏奈の言葉を、父親が苦しみを堪えて無理した口調で遮る。
「心配ない。確かに不治の病ではあるが、すぐにどうこうなるってもんでもないんだ。それに、治す手立てはある。君たちが協力してくれさえすればの話だがね。俺は、まだ高校生の南のためにも死ぬわけにはいかないんだ。あの子が更生して結婚して子供を産んで、幸せになったところを見届けるまでは頑張らなければ」弱々しく微笑んで「やっぱり、父親としては、結婚を申し込んできた男の顔をぶん殴ったり、孫の顔を見たりしたいだろ?」と問いかける。
「出来ることならなんでもやります。だから言ってください」
「ありがとう」
ピアノのように音階がはっきりとした口調だ。そして父親は、勿体つけるようにしてから、吐息が産毛を優しくなでるようなビターで甘い声で、続けて言った。
「とりあえず、、、酒買ってきてくれないか?」
「……」[一同]
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