250 / 428
一年生の三学期
🍭
しおりを挟む
春樹が気づいて指摘した。
「ポストの形がばらばらだな。202の、なんかレトロな上蓋のついたランドセルみたいのだ。さっき一階には、牛乳瓶でも入っていそうな木のやつもあったし」
「それにしても、ろう かのとこに こんな大きな窓 あって、住んでる人落ち着けるの かしら ねー。な ぜ な ら ば、部屋の電気つけたら、中の影 が 映って まるわかりだわよ」
奈緒が頓狂な声を上げる。
「うん」杏奈が頷いた。「換気扇も扇風機みたいなやつだから、男の人の身長なら中見えちゃうわね。使ってないのになんで蓋が開いているのかしら?」
視線の先にある室内の明かりに照らされたプロペラは、黒々としたタールのような油汚れにまみれていて、酸化した油と焦げのにおいが、室内から溢れてきた男臭と混じって漂ってきていた。
ちょうどその部屋の前で、四人が立ち止まる。眼前には、表面がはがれた古めかしい木のドアがあり、筒状のノブは、暗闇の中でも分かるほどさび付いている。
春樹がみんなに声をかけて、顎をしゃくる。玄関扉の左側には、二メートルくらいの高さに、顔一つ分くらいの曇りガラスの窓が二つ並んでいた。
「なんか、この小窓、ステテコ姿のおじいちゃんが外をのぞいていそうだな。それに、こんなざらざらした土を固めたような壁、初めて見た」
外壁に手のひらをあてがう春樹の背を越えて窓を見ながら、菜緒が発言。
「あれだっ、“とえれ”。緑のこういうのがある。だから“トエレ”だ」
窓越しにある緑色のシルエットをみんなが伺う。
玄関ドアの右横にある大きな曇りガラスの窓には、食器用洗剤が置いてある。それを見やりながら、春樹が続けた。
「この波打ったプラスチック、目隠しとして施してあんだろーけど、全然無意味じゃん。半分朽ちてやんの」
杏奈がぼやく。
「それにしても清掃や管理はどうなっているのかしら。廊下の壁にまで蔓が伸びてきて、残骸でおおわれているわ」
「してねーだろ、そんなこと。掃き清掃くらいじゃねぇの? 大家のおばあちゃんとかがさ」
奈緒が、怖々とした声をあげた。
「それで、一年……半年…じゃなくて、このくらい。どう言うの? 六か月。違う。一週間だ。どうなっているの?」
「なんのこと?」杏奈が訊く。
「203号室が、だれの家かってことよ」
誰も何も答えずに、見えない顔を見合わせる。もちろん一人を除いて。
無返答に意を介さない奈緒が顔を近づけて見やった表札には、203号室 小沢 と奇麗な字で書いてあった。
「ポストの形がばらばらだな。202の、なんかレトロな上蓋のついたランドセルみたいのだ。さっき一階には、牛乳瓶でも入っていそうな木のやつもあったし」
「それにしても、ろう かのとこに こんな大きな窓 あって、住んでる人落ち着けるの かしら ねー。な ぜ な ら ば、部屋の電気つけたら、中の影 が 映って まるわかりだわよ」
奈緒が頓狂な声を上げる。
「うん」杏奈が頷いた。「換気扇も扇風機みたいなやつだから、男の人の身長なら中見えちゃうわね。使ってないのになんで蓋が開いているのかしら?」
視線の先にある室内の明かりに照らされたプロペラは、黒々としたタールのような油汚れにまみれていて、酸化した油と焦げのにおいが、室内から溢れてきた男臭と混じって漂ってきていた。
ちょうどその部屋の前で、四人が立ち止まる。眼前には、表面がはがれた古めかしい木のドアがあり、筒状のノブは、暗闇の中でも分かるほどさび付いている。
春樹がみんなに声をかけて、顎をしゃくる。玄関扉の左側には、二メートルくらいの高さに、顔一つ分くらいの曇りガラスの窓が二つ並んでいた。
「なんか、この小窓、ステテコ姿のおじいちゃんが外をのぞいていそうだな。それに、こんなざらざらした土を固めたような壁、初めて見た」
外壁に手のひらをあてがう春樹の背を越えて窓を見ながら、菜緒が発言。
「あれだっ、“とえれ”。緑のこういうのがある。だから“トエレ”だ」
窓越しにある緑色のシルエットをみんなが伺う。
玄関ドアの右横にある大きな曇りガラスの窓には、食器用洗剤が置いてある。それを見やりながら、春樹が続けた。
「この波打ったプラスチック、目隠しとして施してあんだろーけど、全然無意味じゃん。半分朽ちてやんの」
杏奈がぼやく。
「それにしても清掃や管理はどうなっているのかしら。廊下の壁にまで蔓が伸びてきて、残骸でおおわれているわ」
「してねーだろ、そんなこと。掃き清掃くらいじゃねぇの? 大家のおばあちゃんとかがさ」
奈緒が、怖々とした声をあげた。
「それで、一年……半年…じゃなくて、このくらい。どう言うの? 六か月。違う。一週間だ。どうなっているの?」
「なんのこと?」杏奈が訊く。
「203号室が、だれの家かってことよ」
誰も何も答えずに、見えない顔を見合わせる。もちろん一人を除いて。
無返答に意を介さない奈緒が顔を近づけて見やった表札には、203号室 小沢 と奇麗な字で書いてあった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる