FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の三学期

🍭

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 春樹が気づいて指摘した。
「ポストの形がばらばらだな。202の、なんかレトロな上蓋のついたランドセルみたいのだ。さっき一階には、牛乳瓶でも入っていそうな木のやつもあったし」
「それにしても、ろう かのとこに こんな大きな窓 あって、住んでる人落ち着けるの かしら ねー。な ぜ な ら ば、部屋の電気つけたら、中の影 が 映って まるわかりだわよ」
 奈緒が頓狂な声を上げる。
「うん」杏奈が頷いた。「換気扇も扇風機みたいなやつだから、男の人の身長なら中見えちゃうわね。使ってないのになんで蓋が開いているのかしら?」
 視線の先にある室内の明かりに照らされたプロペラは、黒々としたタールのような油汚れにまみれていて、酸化した油と焦げのにおいが、室内から溢れてきた男臭と混じって漂ってきていた。
 ちょうどその部屋の前で、四人が立ち止まる。眼前には、表面がはがれた古めかしい木のドアがあり、筒状のノブは、暗闇の中でも分かるほどさび付いている。
 春樹がみんなに声をかけて、顎をしゃくる。玄関扉の左側には、二メートルくらいの高さに、顔一つ分くらいの曇りガラスの窓が二つ並んでいた。
「なんか、この小窓、ステテコ姿のおじいちゃんが外をのぞいていそうだな。それに、こんなざらざらした土を固めたような壁、初めて見た」
 外壁に手のひらをあてがう春樹の背を越えて窓を見ながら、菜緒が発言。
「あれだっ、“とえれ”。緑のこういうのがある。だから“トエレ”だ」
 窓越しにある緑色のシルエットをみんなが伺う。
 玄関ドアの右横にある大きな曇りガラスの窓には、食器用洗剤が置いてある。それを見やりながら、春樹が続けた。
「この波打ったプラスチック、目隠しとして施してあんだろーけど、全然無意味じゃん。半分朽ちてやんの」
 杏奈がぼやく。
「それにしても清掃や管理はどうなっているのかしら。廊下の壁にまで蔓が伸びてきて、残骸でおおわれているわ」
「してねーだろ、そんなこと。掃き清掃くらいじゃねぇの? 大家のおばあちゃんとかがさ」
 奈緒が、怖々とした声をあげた。
「それで、一年……半年…じゃなくて、このくらい。どう言うの? 六か月。違う。一週間だ。どうなっているの?」 
「なんのこと?」杏奈が訊く。
「203号室が、だれの家かってことよ」
 誰も何も答えずに、見えない顔を見合わせる。もちろん一人を除いて。
 無返答に意を介さない奈緒が顔を近づけて見やった表札には、203号室 小沢 と奇麗な字で書いてあった。



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