248 / 410
一年生の三学期
第八十話 203号室
しおりを挟む
そこに屹立していたのは、二階建てのアパートだった。共用部分を照らす照明は切れているのかついておらず、その容態は、異様なほど恐ろしげに見える。壁には、ドクダミらしき枯れた蔓が毛細血管のように縦横無尽に張り巡らされていて、寄生され体液をすすられる動物のようにも見えた。
ガラス戸の内側が煌々と輝く奥の家の様子を伺いに行っていた春樹が戻ってきて、後ろを振り返る。
「奥のは一軒家みたいだな。表札は別人のだ。その奥は行き止まり。あそこより奥の家は、たぶん反対側の道から入るんじゃないかな」
聞き終わって、務が再度見上げる。
「となると、このアパートの部屋のどれかか……」
「じょうだんでしょ」杏奈が悲鳴めいた小声を上げた。「アパートの後ろにマンション見えてるじゃない。そっちじゃないの? いくらなんでも、こんな昭和の中ごろみたいな建物なんかに住んでいるはずないわよ。現に部屋の明かりひとつもついていないじゃない。もう空き家になっていて、建て直すのを待っているんじゃないかしら?」
務が、地図アプリに目を落として、指し示す。
「裏のマンションなら、こっちの四角いのでしょ。目的地は、その隣の空白部分をさしているよ。だから、ここで間違いないよ」
大ヒットアニメに出てくる顔の無い妖怪みたいな影の塊と化した春樹が、辺りを見渡す。
「これは気づかないよな。公道から十メートル、二十メートル奥ばってるし、四方を民家に囲われていて陰になってるし。外界との繋がりは、人がやっと一人通れるこの細い私道だけじゃん。しかも雑草に覆われていて、暗いと全く見えないし。地図アプリがあっても一生たどり着けないような絶海の孤島みたいじゃん。たどり着けたのは奇跡だな。でもさすがにここに住んでるとは思えないよ、築七、八十年ってところか? まるっきりゴーストハウスじゃん。玄関ドアもプレハブ小屋のみたいだし、昔から住んでるおじいちゃんとかは別にして、令和の若い家族がここ借りたりはしないだろ」
「そうよ、きっと。探せばこんなふうに入り口が奥にあるマンション、まだあるんじゃないかしら」杏奈が務に撤退を促す。
「でも、一部屋一部屋表札を確認していこうよ。203号室を見つけさえすれば、それでいいわけだし」
「うへぇ、ここ入るの? ポストは? それ見れば済むことだよ」奈緒が縮こまる。
務が各部屋を見渡す。
「ポストは……一部屋ごとについているみたいだよ。ほら」
指さす方向を三人が見やると、縦長のポストらしき影が見える。近寄ると、かろうじて銀色であることが分かる。
ガラス戸の内側が煌々と輝く奥の家の様子を伺いに行っていた春樹が戻ってきて、後ろを振り返る。
「奥のは一軒家みたいだな。表札は別人のだ。その奥は行き止まり。あそこより奥の家は、たぶん反対側の道から入るんじゃないかな」
聞き終わって、務が再度見上げる。
「となると、このアパートの部屋のどれかか……」
「じょうだんでしょ」杏奈が悲鳴めいた小声を上げた。「アパートの後ろにマンション見えてるじゃない。そっちじゃないの? いくらなんでも、こんな昭和の中ごろみたいな建物なんかに住んでいるはずないわよ。現に部屋の明かりひとつもついていないじゃない。もう空き家になっていて、建て直すのを待っているんじゃないかしら?」
務が、地図アプリに目を落として、指し示す。
「裏のマンションなら、こっちの四角いのでしょ。目的地は、その隣の空白部分をさしているよ。だから、ここで間違いないよ」
大ヒットアニメに出てくる顔の無い妖怪みたいな影の塊と化した春樹が、辺りを見渡す。
「これは気づかないよな。公道から十メートル、二十メートル奥ばってるし、四方を民家に囲われていて陰になってるし。外界との繋がりは、人がやっと一人通れるこの細い私道だけじゃん。しかも雑草に覆われていて、暗いと全く見えないし。地図アプリがあっても一生たどり着けないような絶海の孤島みたいじゃん。たどり着けたのは奇跡だな。でもさすがにここに住んでるとは思えないよ、築七、八十年ってところか? まるっきりゴーストハウスじゃん。玄関ドアもプレハブ小屋のみたいだし、昔から住んでるおじいちゃんとかは別にして、令和の若い家族がここ借りたりはしないだろ」
「そうよ、きっと。探せばこんなふうに入り口が奥にあるマンション、まだあるんじゃないかしら」杏奈が務に撤退を促す。
「でも、一部屋一部屋表札を確認していこうよ。203号室を見つけさえすれば、それでいいわけだし」
「うへぇ、ここ入るの? ポストは? それ見れば済むことだよ」奈緒が縮こまる。
務が各部屋を見渡す。
「ポストは……一部屋ごとについているみたいだよ。ほら」
指さす方向を三人が見やると、縦長のポストらしき影が見える。近寄ると、かろうじて銀色であることが分かる。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
漫才部っ!!
育九
青春
漫才部、それは私立木芽高校に存在しない部活である。
正しく言えば、存在はしているけど学校側から認められていない部活だ。
部員数は二名。
部長
超絶美少女系ぼっち、南郷楓
副部長
超絶美少年系ぼっち、北城多々良
これは、ちょっと元ヤンの入っている漫才部メンバーとその回りが織り成す日常を描いただけの物語。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる