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一年生の三学期
第七十七話 理沙と萌音
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「あの子だ」奈緒が指をさす。
その瞬間、縹渺に見える理沙に向かって、春樹と務が走り出した。ゼロ距離ダッシュでマックススピードまで一気にギアが上がる。
「待ってぇ」
奈緒の叫び声を聞いて振り返った理沙が、「ひっ」と悲鳴を上げた。「わっ、わっ、わっ、なんだなんだ、逃げろっ」
びっくりした不良少女は、やばいといったふうの表情を見せて、なにがなんだか分からない様子のまま走り出す。
「やだぁー助けてー」
「待てー」[春樹]
必死に走る理沙だったが、運動部員の男子の俊足にかなうはずもなく、すぐに御用。務に先んじて首根っこに届いたのは春樹だったが、その直後に務の手も彼女の右二の腕を掴んだ。ロングスカートの裾フリンジを揺らしながら走る杏奈が、西中延公園の手前にいる二人に追いついた時には、理沙は宙ぶらりん状態でもがいていた。
茶色いソバージュをほうきみたく揺らしながら、泣き叫ぶように悲鳴を上げる。
「ごめん、ごめんなさい、ほんと許して。もうしないから。痛くしないで。なんでも言うこと聞く、ちゃんと返すから放してー」と言ったところで、三人に追いついた奈緒の右足を引きずるさまを見て我に返って言いとどまり、顔をあげて気がついた。
「て、あんた、誰だっけ。あの、南の舎弟の」
「なに しゃてーって」奈緒が杏奈に訊いた。
「さあ」脱いだダッフルコートを左腕にかけながら首を傾げる。
恥ずかしそうに立ち上がって努の腕を振りほどいてから膝を払うと、すかした感じで理沙が口を開く。
「なにあんたたち。わたしになんか用? これでもちょっと忙しいのよ、わたし」
彼女が、奈緒、杏奈、春樹、務の順に、右から左に向かって流すように睨みつけると、全員がとっさに視線を逸らす。まさに蛇に睨まれたカエル状態。
調子づいた理沙が息巻く。
「ちっ、服汚れたじゃんよ、ほれ、クリーニング代よこして。二万…三万あればたりるか」
「うそつけよ」春樹が言う。「膝払ってたけど、地面についてねーだろ。どうやって汚れんの。スカート黒いし」
「スウェットが汚れたんだよ。見ろこれ、白いから目立つじゃんよ」
「汚れてねーだろ」
「ほんとに汚れてたら、三万で済むわけないでしょ。なに考えてんのあんた」
その瞬間、縹渺に見える理沙に向かって、春樹と務が走り出した。ゼロ距離ダッシュでマックススピードまで一気にギアが上がる。
「待ってぇ」
奈緒の叫び声を聞いて振り返った理沙が、「ひっ」と悲鳴を上げた。「わっ、わっ、わっ、なんだなんだ、逃げろっ」
びっくりした不良少女は、やばいといったふうの表情を見せて、なにがなんだか分からない様子のまま走り出す。
「やだぁー助けてー」
「待てー」[春樹]
必死に走る理沙だったが、運動部員の男子の俊足にかなうはずもなく、すぐに御用。務に先んじて首根っこに届いたのは春樹だったが、その直後に務の手も彼女の右二の腕を掴んだ。ロングスカートの裾フリンジを揺らしながら走る杏奈が、西中延公園の手前にいる二人に追いついた時には、理沙は宙ぶらりん状態でもがいていた。
茶色いソバージュをほうきみたく揺らしながら、泣き叫ぶように悲鳴を上げる。
「ごめん、ごめんなさい、ほんと許して。もうしないから。痛くしないで。なんでも言うこと聞く、ちゃんと返すから放してー」と言ったところで、三人に追いついた奈緒の右足を引きずるさまを見て我に返って言いとどまり、顔をあげて気がついた。
「て、あんた、誰だっけ。あの、南の舎弟の」
「なに しゃてーって」奈緒が杏奈に訊いた。
「さあ」脱いだダッフルコートを左腕にかけながら首を傾げる。
恥ずかしそうに立ち上がって努の腕を振りほどいてから膝を払うと、すかした感じで理沙が口を開く。
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彼女が、奈緒、杏奈、春樹、務の順に、右から左に向かって流すように睨みつけると、全員がとっさに視線を逸らす。まさに蛇に睨まれたカエル状態。
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「うそつけよ」春樹が言う。「膝払ってたけど、地面についてねーだろ。どうやって汚れんの。スカート黒いし」
「スウェットが汚れたんだよ。見ろこれ、白いから目立つじゃんよ」
「汚れてねーだろ」
「ほんとに汚れてたら、三万で済むわけないでしょ。なに考えてんのあんた」
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