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一年生の三学期
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奈緒は、キレ気味に涙声を発する。
「分かりませんよ、わたしは! もうここがどこか分かりません!」
『なにか目印はないの?』
「ななまーと」
『どこの?』
「でも違うの。ななまーとに来てほしいんじゃないの」
『じゃあどこなの?』
「ななまーと――ああん、ちがう。どうして分からないの。そうだ、お巡りさんに訊いて きま す」
『そばにいるの?』
「ううん、南ちゃんが捕まってる」
『交番?』
「ちがう。税務署」
『警察署? どこの』
「荏原中延の」
『分かった、すぐ行く』
電話を切ると、奈緒はすぐさま杏奈に電話をかけた。
慌てた口調の奈緒をなだめすかしながら話を聞いていた杏奈が、この子に答える。
『落ち着いて。警察にいるんでしょう? それは警察に任せたほうがいいと思うわ。成瀬さんが小沢さんのしたことに関わっていないとは思うけど、疑われたら大変だから、戻ってくるのを待ちましょう』
「でもだめ。務君が来るから」
一瞬間があって、杏奈が答える。
『務君に電話したんだ。それでなんて?』
「分からない。でも来てくれる」
『そう』声のトーンを上げて『それじゃあわたしも行くわ。小沢さんのことも心配だけれど、成瀬さんのことも心配だから』
待ち合わせ場所が荏原にある警察署であることをなんとか伝えると、杏奈はすぐに来てくれると言ったので、奈緒はお礼を言って電話を切った。そして続けて、春樹にも電話をかける。
彼は、いきさつを把握できる会話は皆無であったにもかかわらず、荏原中延駅から近い警察署であることだけを確認してすぐに向かうと言ってくれた。
ピンクベージュの表紙を閉じると、しっかりとボタンを閉めててさげにしまい、警察署へとがむしゃらに走って戻る。飛べないトビムシのようなそのさまに、この子の必死さが伺えた。
「分かりませんよ、わたしは! もうここがどこか分かりません!」
『なにか目印はないの?』
「ななまーと」
『どこの?』
「でも違うの。ななまーとに来てほしいんじゃないの」
『じゃあどこなの?』
「ななまーと――ああん、ちがう。どうして分からないの。そうだ、お巡りさんに訊いて きま す」
『そばにいるの?』
「ううん、南ちゃんが捕まってる」
『交番?』
「ちがう。税務署」
『警察署? どこの』
「荏原中延の」
『分かった、すぐ行く』
電話を切ると、奈緒はすぐさま杏奈に電話をかけた。
慌てた口調の奈緒をなだめすかしながら話を聞いていた杏奈が、この子に答える。
『落ち着いて。警察にいるんでしょう? それは警察に任せたほうがいいと思うわ。成瀬さんが小沢さんのしたことに関わっていないとは思うけど、疑われたら大変だから、戻ってくるのを待ちましょう』
「でもだめ。務君が来るから」
一瞬間があって、杏奈が答える。
『務君に電話したんだ。それでなんて?』
「分からない。でも来てくれる」
『そう』声のトーンを上げて『それじゃあわたしも行くわ。小沢さんのことも心配だけれど、成瀬さんのことも心配だから』
待ち合わせ場所が荏原にある警察署であることをなんとか伝えると、杏奈はすぐに来てくれると言ったので、奈緒はお礼を言って電話を切った。そして続けて、春樹にも電話をかける。
彼は、いきさつを把握できる会話は皆無であったにもかかわらず、荏原中延駅から近い警察署であることだけを確認してすぐに向かうと言ってくれた。
ピンクベージュの表紙を閉じると、しっかりとボタンを閉めててさげにしまい、警察署へとがむしゃらに走って戻る。飛べないトビムシのようなそのさまに、この子の必死さが伺えた。
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