FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の三学期

第七十一話 SOS

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 奈緒は、警察署を出たきり途方に暮れた様子で歩道に佇み、おろおろとしながら何度も辺りを見渡す。何かを探しているようだが見つからず、後ろを振り返る。視線の先にある自動ドアのわきに、警官が一人立っていた。みぞおちの高さと同じくらいの長い警杖の上部先端に両手を据えている彼は、奈緒を熟視しているように見える。
 逡巡するようにしばらく警官を横目で見ながらうろうろしていた奈緒だったが、怖気づいた様子で視線をそらし、警察署に背を向ける。そしてちょうど通りかかったサラリーマンに声をかけた。
「とんとん、とんとん、すいません。電話ボックスはどこですか?」
 だが、そのサラリーマンは、首を傾げただけで去って行く。もう幾人かに声をかけるが、知らないとしか返ってこない。
 五里霧中で立ち尽くす奈緒が、唯一視界が開けた空間のある後ろを向いて、もう一度ちらりと警官を見やった。
 するとその警官は、警杖の上部先端から左手を外し、右手で握ったそれを左手に持ちかえる。ゆらりと揺れて重心を静かに左足に傾けると、右足を上げる素振りを見せた。
 それを見たこの子は居たたまれなくなったのか、すぐさま足早にその場を立ち去る。そして、すぐそばの交差点の手前を歩いて来た夫婦らしき老いた二人を見つけて、再び同じ言葉で問う。
「とんとん、とんとん、すいません。電話ボックスどこですか? 電話ボックスどこですか?」
 数回息を整えると続けて、赤ちゃん言葉気味に身の上を語る。
「わ た し は、右手右足でごめんなさいっ。身 体 障 がい 者で ごめんな さ い。だ か ら、うまく言葉が でませんっ」
 老夫婦は進行方向を見やってから後ろの交差点を眺めて考え込む。そして老紳士がゆっくりと一句一句はっきりとした発音で答えた。
「うーん、分かりやすいのは、ここをまっすぐ行ったところにある郵便局の向こうにあるやつかなぁ」
 すると、老婦人が言い添える。
「あとはねぇ――そこの交差点を右に曲がった先にあるななまーとに、公衆電話があったんじゃないかしら」
「図書館に行く道だ!」アハ体験で奈緒叫ぶ。
「そうそう。さらに先に行くとあるわねぇ」
「ありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げると、奈緒は急いで横断歩道を渡る。すでに点滅していたから、真ん中に来る頃には赤に変わっていた。渡りきると同時に、優しく待っていてくれた車が流れ始める。


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