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一年生の二学期
🖼️
しおりを挟む「なにこれ」と南。
「うま」
「恐竜かと思った。モヒカンみたいにこぶが四つあって。骨折して変な形でくっついた感じの生き物。目はやさしげだけど、まあ、馬って言われれば馬かな? なかなか上手だよ」
「でしょう、これがいいかな?」
奈緒は喜んで、振り子のように頭を左右に振って微笑んだ。
「どういう意味で描いたの? 特にずんずんずん……て」南が訊く。
「これ、こんなやつなんてやつ?」
「バウンズ?」
「そう、それ。わたしの似顔絵は、わたしなのにわたしじゃないみたいで楽しかったなぁって」
「ああ、奈緒の似顔絵なのね、これ」
「分かんないけど、そうかも。それでこれなんだ? なんの絵?」
「馬でしょ」
「そう。なんでこれ持ってきたんだろ? なんで?」
「わたしに訊かれても知らないよ。とりあえず全部あげたら?」
「やめとく。馬なんて知らないし。最初のブレイクダンスにする」
「んん?? どこにブレイクダンスあったの?」
「ここに」
奈緒が見せつけた。
「巻貝じゃん」
「ちがう。こ れ は、回ってるところを 印象的に 描 い た の」
よくわからないやり取りを経るうちに、目的地である御手洗さんの家に着いた。
しばらくおしゃべりをしてから人形焼きを渡して別れを告げた奈緒に、ちらほらと白髪が残る色白のおじいさんである御手洗さんは、「気をつけて。転ばないようにね」と気を使った。
奈緒は、玄関を出ると彼に振り返って、膝を折り曲げて斜めに頭を倒して、可愛く言った。
「お互い 気を つけましょう ね」
歩道と敷地の境界線をまたぐと、再び振り返って深々とお辞儀をして、門の横に立っていた南に向き直る。
「それじゃあ行こう」
「うん。ここからなら、旗の台のほうとあんまり距離変わんないから、そっちから行こうよ。そしたら、わたしのバイト先もそばだから駅まで送る」
「ありがとう。でもいいの。わたしは 歩 い て 帰りますから」
「歩いてって、北千束まで? けっこう遠いけど大丈夫?」
驚く南に、奈緒が笑う。
「うん。こういってこうでこうですぐだから。それにこのくらい、いつもリハビリで歩く。荏原 中延から 何度も歩いたことあるから、大丈夫 だよ」
驚きを通り越して愕然したまま固まる南が、数秒遅れて感興した。
「え~、わたしだったら絶対無理。健常者より全然すごいじゃん」
信じられない様子の南に先んじて、奈緒は鷹揚に歩み始めた。その歩みは右のつま先を引きずっていたが、とても元気のいい弾む足取りだった。
作画:緒方宗谷
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