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一年生の二学期
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不意に萌音から視線を向けられて、奈緒は縮こまった。
それに気がつきながらも気に留めない様子で視線を外し、黒髪セミロングの彼女が丹唇を開く。
「――でもあれだ、遅れてきてよかったよ、ほんと。中学出る直前に世田谷から急に引っ越しちゃったからショックだったけど、今思うとそれでよかったんだと思う」
理沙が萌音を見やって「うん」と二人で相槌を打つ。
「なんで?」
南が訊くと、理沙が答えた。
「ブチャ戻ってきた」
「まじ?」南がぎょっとする。
萌音がため息をついた。
「卒業して二年だよ。なんで戻ってくる?」
「高校中退してなにやってんのかと思ったら、変わんない。社会でなよ。今さらなんなの? パピオンの頭づらして」と理沙が引き継ぐ。
どう答えてよいか悩む表情で、南がふと思い出したように訊いた。
「真理は?」
「無謀にもブチャに歯向かってボコられた。今引きこもってる」
理沙がそう答えると、続けて南が訊く。
「なにやってんの、ここで?」
「あ、いや、なにやってんのって……べつに。なぁ」
南の質問に困った顔した理沙が、萌音を見た。
「んー、うん」
萌音は口ごもって、二の腕を巻くようにデザインされた袖の太い帯状のグレーラインをぎゅっと扼腕する。そして話題を変えた。
「南も気を付けてね、見つかるとやばいから」
「うん、こんど遊ぼう」
「やめよう」理沙が苦笑う。「巻き込まれるよ」
「あはは」萌音も苦笑った。
「それより大丈夫? この子怯えてるよ」
理沙が心配したそぶりで笑みを浮かべながら、申し訳なさそうに南に教える。
「ああ、耐性ないんだよ。二人みたいなのに」
「騙されちゃだめだよ~。この子もっとすごいんだから」
奈緒が顔をしかめて、南の後ろに隠れた。
「めっちゃ飼いならされてる。完全騙されてるよ、この子」理沙が驚く。
「うそ言わないでよ、わたし、淑女なんだから」南が、間髪入れずにツッコミを入れると、
「「うそつき」」二人がハモる。
奈緒を除く三人は、しばらく大笑いをしていたが、急に静まって南が話を切り上げた。
「そうだ、これからバイト行かなきゃいけないから、もう行くね」
そう別れを告げるツンツン頭の昔馴染みに、二人も別れの言葉を述べて手を振る。
三人は、名残惜しそうにいつまでも手を振り続けあっていた。
それに気がつきながらも気に留めない様子で視線を外し、黒髪セミロングの彼女が丹唇を開く。
「――でもあれだ、遅れてきてよかったよ、ほんと。中学出る直前に世田谷から急に引っ越しちゃったからショックだったけど、今思うとそれでよかったんだと思う」
理沙が萌音を見やって「うん」と二人で相槌を打つ。
「なんで?」
南が訊くと、理沙が答えた。
「ブチャ戻ってきた」
「まじ?」南がぎょっとする。
萌音がため息をついた。
「卒業して二年だよ。なんで戻ってくる?」
「高校中退してなにやってんのかと思ったら、変わんない。社会でなよ。今さらなんなの? パピオンの頭づらして」と理沙が引き継ぐ。
どう答えてよいか悩む表情で、南がふと思い出したように訊いた。
「真理は?」
「無謀にもブチャに歯向かってボコられた。今引きこもってる」
理沙がそう答えると、続けて南が訊く。
「なにやってんの、ここで?」
「あ、いや、なにやってんのって……べつに。なぁ」
南の質問に困った顔した理沙が、萌音を見た。
「んー、うん」
萌音は口ごもって、二の腕を巻くようにデザインされた袖の太い帯状のグレーラインをぎゅっと扼腕する。そして話題を変えた。
「南も気を付けてね、見つかるとやばいから」
「うん、こんど遊ぼう」
「やめよう」理沙が苦笑う。「巻き込まれるよ」
「あはは」萌音も苦笑った。
「それより大丈夫? この子怯えてるよ」
理沙が心配したそぶりで笑みを浮かべながら、申し訳なさそうに南に教える。
「ああ、耐性ないんだよ。二人みたいなのに」
「騙されちゃだめだよ~。この子もっとすごいんだから」
奈緒が顔をしかめて、南の後ろに隠れた。
「めっちゃ飼いならされてる。完全騙されてるよ、この子」理沙が驚く。
「うそ言わないでよ、わたし、淑女なんだから」南が、間髪入れずにツッコミを入れると、
「「うそつき」」二人がハモる。
奈緒を除く三人は、しばらく大笑いをしていたが、急に静まって南が話を切り上げた。
「そうだ、これからバイト行かなきゃいけないから、もう行くね」
そう別れを告げるツンツン頭の昔馴染みに、二人も別れの言葉を述べて手を振る。
三人は、名残惜しそうにいつまでも手を振り続けあっていた。
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