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一年生の二学期
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レジの順番が自分に回ってくると、急いでクッキーが並んでいる棚に駆け寄って五つ取り、戻ってきて店員にそれを渡す。小分けにされた四枚入りでいびつな丸型をした五つのフィルムが置かれたので、何事かとみんなが見やる。
「こ れ も く だ さ い」と言うと、満を持して後ろに振り返り、奈緒は身を正して言った。
「やっぱり、みんなにはお世話になったし、なにか お礼が したいのです から、これをどうぞお お さ め く だ さ い」
言い終わって、腰の前で右手に左手を添えて、深々とお辞儀をする。
「いいよ、お礼なんて。わたしたち好きでしたことなんだし」
杏奈が申し訳なさそうに言う。
「ううん。それではわたしの気が収まらないので、ください。おねがいします」
どうしていいか分からない様子で、杏奈が務を見やるが、彼も困った様子で考えるそぶりを返した。
クッキーの乗っていた棚を見に行った春樹が、商品を眺めながらみんなに言った。
「あんま高くないね。一個二百五十円」
「そのくらいならいいんじゃないかな」と務が様子を窺うように杏奈を見る。「成瀬さんも感謝の気持ちを返せないと、もやもやしちゃうだろうし」
「そうね、それじゃあ、そのクッキーいただいちゃおうかしら」
「そうしてくださいっ」と、はきはきした声を上げた奈緒が、ほっとしたように口をつぐんで微笑む。
「それでは、お会計お願いします」
店員にそう促されて振り返った奈緒が、注文を付け加える。
「それと、ふつうのシュークリーム ひとつください」
「まだ食うのかよ」と春樹。
「うん。おやつに食べる」
そう言ってお代を清算したこの子であったが、外に出るなり、袋から箱を取り出して蓋を開ける。
「こ れ も く だ さ い」と言うと、満を持して後ろに振り返り、奈緒は身を正して言った。
「やっぱり、みんなにはお世話になったし、なにか お礼が したいのです から、これをどうぞお お さ め く だ さ い」
言い終わって、腰の前で右手に左手を添えて、深々とお辞儀をする。
「いいよ、お礼なんて。わたしたち好きでしたことなんだし」
杏奈が申し訳なさそうに言う。
「ううん。それではわたしの気が収まらないので、ください。おねがいします」
どうしていいか分からない様子で、杏奈が務を見やるが、彼も困った様子で考えるそぶりを返した。
クッキーの乗っていた棚を見に行った春樹が、商品を眺めながらみんなに言った。
「あんま高くないね。一個二百五十円」
「そのくらいならいいんじゃないかな」と務が様子を窺うように杏奈を見る。「成瀬さんも感謝の気持ちを返せないと、もやもやしちゃうだろうし」
「そうね、それじゃあ、そのクッキーいただいちゃおうかしら」
「そうしてくださいっ」と、はきはきした声を上げた奈緒が、ほっとしたように口をつぐんで微笑む。
「それでは、お会計お願いします」
店員にそう促されて振り返った奈緒が、注文を付け加える。
「それと、ふつうのシュークリーム ひとつください」
「まだ食うのかよ」と春樹。
「うん。おやつに食べる」
そう言ってお代を清算したこの子であったが、外に出るなり、袋から箱を取り出して蓋を開ける。
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