FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の二学期

🐿️

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 この子の書いた和紙製の絵はがきには、てんとう虫だったり、干支の寅の絵が描いてあったりした。必ずその横にコメントがある。

 つまるところ楽しいです

 たなしいな いい日だな

 おなかへった

 南は面食らって吹き出した。
「『ハッピー バースデー 犬』だって。犬飼ってるだ」
「ううん、飼っていないよ」
「昔飼ってたの?」
「飼ったことない」
「じゃあ、なんで犬なの?」
「さあ」奈緒は首を傾げる。
 南が部屋を見渡す。
「そういえば、美術部ではどんな絵を描いていたの?」
「水彩画。油絵もやったよ」そう言って、クローゼットを開けると、下にしまわれていた段ボールから油絵を取り出して南に渡す。
「うわぁっ、上手いじゃん。どこの景色?」南が歓喜して手に取った。
「分からない。なに描いてある?」
「なにって、森に囲まれた湖」
「ふーん。小学生のこ ろ、教室のビーカーに 乗せた球根から、だんだんと根っこが伸びていくのを見るのが 好きだったの。なんか生きてるって思えるの。“そいで”図工の時間の時に、その絵を描いたら、男子がなんで根っこなんか描いてんだよって言ったの だ け れ ど、先生はいいねって褒めてくれた。あなたの感性だから、あなたの感性で描けばいいって。望む なら 水面に浮いたようにして 幻想的にしてもいいし、もう一歩踏み込んで、もっと幻想的にしてもいいって言って くれた の」
 奈緒は、懐かしむように瞳を細め、いつもと比べて流暢に喋った。
「でも、額装めんどくさい。絵は裸とおんなじだから、だから額装しなくっちゃって思うけど。あーあ、売れっ子の大先生はよかったなぁ。全部画商がしてくれるんだから。いい! これはいい! って全部きれいに額装して持ってって く れ る」
「でも奈緒も部長にしてもらっていたんでしょ」
「そう。そのためのぶちょーだから」
「でも先生の一言って大事だよね。それで人生が大きく変わることがある。奈緒はその先生の一言で、美術の道に進んだんだ」
「ううん。進まなかった」
 南がずっこけるのを見て笑う奈緒が続ける。
「この家を建ててから近所の――近所のって言っても近所じゃないけど、近所のお絵描き教室に行ったの。それから始めた」
「なるほど――」




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