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一年生の二学期
第五十六話 個性
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奈緒の部屋は小奇麗だった。十畳ある洋室に薄い桜色のカーペットが敷いてあって、左と奥の壁に窓があった。右端にベッド、左端に学習机があるが、シンデレラや不思議の国のアリスのシールが貼ってあって、小学生の家具かと見まがう。
部屋の真ん中にあるクッションの一つに座ろうとした南が座るのをやめて奈緒に声をかけた。
「かたづけてあげようか」
そう言って、積みあがった画集や絵に関する本のそばによる。
「いいの、いいの。これは あれだから こうで、こうで、大変だからいいの」
奈緒は画集を一冊取って、本棚に入れようとする。だが、斜めに倒れた本がつかえてしまえない。
南は「ふーん」と答えて、足の短いガラス・テーブルに奇麗にたたまれた毛糸の厚手なカーディガンやチェックのボトムスパンツが数着積まれているのを見る。
それに気が付いた奈緒が、テーブルの隣にあるタンスまで歩いて行って同じことを言いながら、左手で二つある丸いノブの左を引く。
南はすぐに察しがついた様子で、小刻みに頷いた。
「ああ、開かないのね。それで服は出しっぱなしなのね」
「うん、夏服は しまう。寒いから着るのは 出し ま しょ う」
南がタンスの上を見た。絵の具の塊がにじんだはがきを手に取る。
「絵手紙、描くんだ。そう言えば中学美術部だったっけ?」
「うん。そうなの。描くの。でもだめ。下手だから。週に一度 絵手紙 教室に 行きます。わたしは先週これを 描 い た」
そう言って、タンスに手を伸ばす。タンスの一番上の引き出しは半分の幅しかなく、片手でも難なく引けた。そしてクリアファイルを南に差し出して、話を続ける。
「これは、絵手紙[の教室で]であった本を 見て 描いた」
奈緒が指さす絵には、滲んだ薄い墨字で金文書体の歪んだ文字が書いてある。この子の筆跡だ。
「この昔の中国で使われていそうな文字の横に書いてあるのは――詩かな?」南が訊く。
「そう。そして これは これで描いた」
奈緒はそう言って、床に置いてあったカバンの前に座った。かばんは、学校で使っている黒のリュックの他に、おにぎりに似た形で小学校中学年に似合いそうなサイズの深緑のリュックと茶色いてさげ。手を伸ばしたのは、茶色いてさげ。全て柄の違う扇が上下違う向きで交互に帯状につながって四段並んでいる。白い縫い糸が目立つ手作り感満載なキルトのてさげだ。この子は、絵手紙入門の本を出して南に渡す。
彼女はそれをパラパラとめくって、奈緒の描いた詩と見比べた。
「誤字脱字でなんか分かんないけど、うまく書けてる」
「あら、そーお?」と、まんざらでも様子で、菜緒は微笑む。
部屋の真ん中にあるクッションの一つに座ろうとした南が座るのをやめて奈緒に声をかけた。
「かたづけてあげようか」
そう言って、積みあがった画集や絵に関する本のそばによる。
「いいの、いいの。これは あれだから こうで、こうで、大変だからいいの」
奈緒は画集を一冊取って、本棚に入れようとする。だが、斜めに倒れた本がつかえてしまえない。
南は「ふーん」と答えて、足の短いガラス・テーブルに奇麗にたたまれた毛糸の厚手なカーディガンやチェックのボトムスパンツが数着積まれているのを見る。
それに気が付いた奈緒が、テーブルの隣にあるタンスまで歩いて行って同じことを言いながら、左手で二つある丸いノブの左を引く。
南はすぐに察しがついた様子で、小刻みに頷いた。
「ああ、開かないのね。それで服は出しっぱなしなのね」
「うん、夏服は しまう。寒いから着るのは 出し ま しょ う」
南がタンスの上を見た。絵の具の塊がにじんだはがきを手に取る。
「絵手紙、描くんだ。そう言えば中学美術部だったっけ?」
「うん。そうなの。描くの。でもだめ。下手だから。週に一度 絵手紙 教室に 行きます。わたしは先週これを 描 い た」
そう言って、タンスに手を伸ばす。タンスの一番上の引き出しは半分の幅しかなく、片手でも難なく引けた。そしてクリアファイルを南に差し出して、話を続ける。
「これは、絵手紙[の教室で]であった本を 見て 描いた」
奈緒が指さす絵には、滲んだ薄い墨字で金文書体の歪んだ文字が書いてある。この子の筆跡だ。
「この昔の中国で使われていそうな文字の横に書いてあるのは――詩かな?」南が訊く。
「そう。そして これは これで描いた」
奈緒はそう言って、床に置いてあったカバンの前に座った。かばんは、学校で使っている黒のリュックの他に、おにぎりに似た形で小学校中学年に似合いそうなサイズの深緑のリュックと茶色いてさげ。手を伸ばしたのは、茶色いてさげ。全て柄の違う扇が上下違う向きで交互に帯状につながって四段並んでいる。白い縫い糸が目立つ手作り感満載なキルトのてさげだ。この子は、絵手紙入門の本を出して南に渡す。
彼女はそれをパラパラとめくって、奈緒の描いた詩と見比べた。
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「あら、そーお?」と、まんざらでも様子で、菜緒は微笑む。
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