124 / 428
一年生の二学期
🐿️
しおりを挟む
一瞬言葉を切る。そして明るく弾んだ声で、再び話し始めた。
「成瀬さんなら出来ると思うよ。今はつらいかもしれないけれど、これを乗り越えたら、とても上手にリズムとれるようになると思う。確かに叩かれるのはストレスになっちゃうかもしれないね。ごめんね、そこまで察してあげられなくて。わたし運動部だったから、ちょっとそんなノリが入っちゃうのかも。どうしよう。目の前に立って一緒にバウンスしてあげるとか、なにか方法ないかな?」
そう言って、音楽に合わせてバウンスをはじめると、奈緒にも合わせてするように促す。
非難めいた口調が一転して、とてもやさしい声音だった。言葉の変容ぶりを前にして奈緒があっけにとられていると、突然扉が開いて春樹が入ってきた。
「よう、やってる? 部活でマラソンやってんの。少し抜け出して見に来た。お、奈緒頑張ってんじゃん。でもなに、まだダウンから抜け出せないの?」
「うん。春樹君がノンちゃんとお喋りばかり して練習にならないから、無理でした」奈緒が唇を突き出す。
「うそ、俺のせい。マジごめん」
「ううん。でも春樹君が来ると、和むから、好き」
「まさか、惚れる? 俺に」
「ううん。それはないですから」
ずっこけた春樹のそばにウキウキした様子の暖乃が寄っていって、のぞき込むように瞳を向ける。
「高木君、一年なのにベンチ入りだなんてすごいね」
暖乃は、パドブレ気味に足を交互に送るトップロックを踏んで、春樹を褒める。
彼は暖乃の方を向いてお礼を言ったが、すぐに視線をそらした。
それを冷ややかに見上げてワームを繰り返してから、胸を突き出して更に身を寄せる。重ね着風の黒い長そでのシャツは胸元が大きく深くU字にえぐれていて、同じく大きくえぐれた白い生地が胸の谷間を強調していた。
「そうだ」春樹が思い出したように言った。
持っていた黒いドラム型リュックの中から、赤地と白い花柄の角ばった巾着袋を取り出す。そして続ける。
「親戚が東京に来ててさ。お土産にこれたくさんもらったから、差し入れ」
「わーい、やったあ、晴信餅だ。いいな、山梨、行きたーい」
暖乃がはしゃぐと魚子が食いついてきた。
「へぇー、気の利いた差し入れ、ありがとー」
不愛想なかおりもそばに寄ってきて、仲間の間に首を突っ込む。
「成瀬さんなら出来ると思うよ。今はつらいかもしれないけれど、これを乗り越えたら、とても上手にリズムとれるようになると思う。確かに叩かれるのはストレスになっちゃうかもしれないね。ごめんね、そこまで察してあげられなくて。わたし運動部だったから、ちょっとそんなノリが入っちゃうのかも。どうしよう。目の前に立って一緒にバウンスしてあげるとか、なにか方法ないかな?」
そう言って、音楽に合わせてバウンスをはじめると、奈緒にも合わせてするように促す。
非難めいた口調が一転して、とてもやさしい声音だった。言葉の変容ぶりを前にして奈緒があっけにとられていると、突然扉が開いて春樹が入ってきた。
「よう、やってる? 部活でマラソンやってんの。少し抜け出して見に来た。お、奈緒頑張ってんじゃん。でもなに、まだダウンから抜け出せないの?」
「うん。春樹君がノンちゃんとお喋りばかり して練習にならないから、無理でした」奈緒が唇を突き出す。
「うそ、俺のせい。マジごめん」
「ううん。でも春樹君が来ると、和むから、好き」
「まさか、惚れる? 俺に」
「ううん。それはないですから」
ずっこけた春樹のそばにウキウキした様子の暖乃が寄っていって、のぞき込むように瞳を向ける。
「高木君、一年なのにベンチ入りだなんてすごいね」
暖乃は、パドブレ気味に足を交互に送るトップロックを踏んで、春樹を褒める。
彼は暖乃の方を向いてお礼を言ったが、すぐに視線をそらした。
それを冷ややかに見上げてワームを繰り返してから、胸を突き出して更に身を寄せる。重ね着風の黒い長そでのシャツは胸元が大きく深くU字にえぐれていて、同じく大きくえぐれた白い生地が胸の谷間を強調していた。
「そうだ」春樹が思い出したように言った。
持っていた黒いドラム型リュックの中から、赤地と白い花柄の角ばった巾着袋を取り出す。そして続ける。
「親戚が東京に来ててさ。お土産にこれたくさんもらったから、差し入れ」
「わーい、やったあ、晴信餅だ。いいな、山梨、行きたーい」
暖乃がはしゃぐと魚子が食いついてきた。
「へぇー、気の利いた差し入れ、ありがとー」
不愛想なかおりもそばに寄ってきて、仲間の間に首を突っ込む。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる