121 / 410
一年生の二学期
🍭
しおりを挟む
それをつまみながら、魚子が答えた。
「あたしら、ほんと感謝してるよ。先輩たちの署名だって集めてくれたんでしょ。先生たちはあたしらがするなら作ってもいいってくらいだから、放って置いたらダンス部できないじゃん。杏奈から聞いたよ。夢を追っている生徒の背中を押してやるのが生徒会の務めだって言ってくれたんでしょ。そういう環境を提供してあげることが、学校という場の役割だって」
務は一瞬言葉を失う。そして二回のまばたきの間だけ黙考した。
「杏奈が言ったんだよ。僕はそれに共感して手伝っていただけだから」
「またまたご謙遜をー」
暖乃がよいしょすると、魚子が真面目に首肯する。
「うん。杏奈がそう言ってた。本当いいコンビだね、二人は。似たようなこと、向こうも言ってた。土屋君の一言に考えさせられて、自分も動かなきゃって思えるみたい。気が強そうでいて、一人では自分からそういうこと言える子じゃないから、土屋君のおかげでずいぶんと頑張って委員長続けていられるんだよ。だから、今のあの子がいられるのも全部土屋君のおかげだと思う。あの子、面と向かって土屋君のすごさを話したりはしないだろうけど、いっつも土屋君の話するの」
突然、暖乃が訊いた。
「土屋君て、彼女とかいるの?」
「な、なにをいきなり?」務がコーラを吹き出しそうになって慌てふためく。
「杏奈でしょ」魚子が答える。
「まさか、付き合っていないよ」
そう慌てた彼に、言葉を続ける。
「付き合っちゃえばいいのに。それとも誰か好きな子いるの?」
「いないけど……」務は口ごもった。
「青春しなきゃ。こんな偏差値低い学校で秀才の二人が出会うなんて奇跡だよ。本来だったら二人とも、もっといい高校行っていてもおかしくないんだからさ」
「そういえば杏奈って、どうしてこの高校に入ったんだろ」
務の質問に、ウィップスの三人が顔を見合わせる。
「……さぁ。それより土屋君はどうしてこの学校だったの?」魚子が訊き返した。
「僕は、寛容な校則と学校の充実した施設に惹かれた。それに、僕らが受験する頃にちょうど進学校への変革を打ち出したばかりで、近隣では噂になっていたでしょ。何人もの生徒を皇大[日本最高の国立大学]に送り込んだ先生が赴任してきたって。実際、授業は分かりやすくて、生徒一人一人の学力を向上させる内容だと思う」
「ああ、でもわりに偏差値低いままだよね、わたしみたく」暖乃が自虐ネタを披露して、一人で笑う。そして続けて「だから、クラブは勉強クラブなんだ、土屋君て。なにが面白くてそんなクラブに入るのか分からないけど。だって授業で勉強してるのに、クラブでも勉強するって、ショートしちゃうもん、わたしだったら」と、調子っぱずれな声を上げた。
「あたしら、ほんと感謝してるよ。先輩たちの署名だって集めてくれたんでしょ。先生たちはあたしらがするなら作ってもいいってくらいだから、放って置いたらダンス部できないじゃん。杏奈から聞いたよ。夢を追っている生徒の背中を押してやるのが生徒会の務めだって言ってくれたんでしょ。そういう環境を提供してあげることが、学校という場の役割だって」
務は一瞬言葉を失う。そして二回のまばたきの間だけ黙考した。
「杏奈が言ったんだよ。僕はそれに共感して手伝っていただけだから」
「またまたご謙遜をー」
暖乃がよいしょすると、魚子が真面目に首肯する。
「うん。杏奈がそう言ってた。本当いいコンビだね、二人は。似たようなこと、向こうも言ってた。土屋君の一言に考えさせられて、自分も動かなきゃって思えるみたい。気が強そうでいて、一人では自分からそういうこと言える子じゃないから、土屋君のおかげでずいぶんと頑張って委員長続けていられるんだよ。だから、今のあの子がいられるのも全部土屋君のおかげだと思う。あの子、面と向かって土屋君のすごさを話したりはしないだろうけど、いっつも土屋君の話するの」
突然、暖乃が訊いた。
「土屋君て、彼女とかいるの?」
「な、なにをいきなり?」務がコーラを吹き出しそうになって慌てふためく。
「杏奈でしょ」魚子が答える。
「まさか、付き合っていないよ」
そう慌てた彼に、言葉を続ける。
「付き合っちゃえばいいのに。それとも誰か好きな子いるの?」
「いないけど……」務は口ごもった。
「青春しなきゃ。こんな偏差値低い学校で秀才の二人が出会うなんて奇跡だよ。本来だったら二人とも、もっといい高校行っていてもおかしくないんだからさ」
「そういえば杏奈って、どうしてこの高校に入ったんだろ」
務の質問に、ウィップスの三人が顔を見合わせる。
「……さぁ。それより土屋君はどうしてこの学校だったの?」魚子が訊き返した。
「僕は、寛容な校則と学校の充実した施設に惹かれた。それに、僕らが受験する頃にちょうど進学校への変革を打ち出したばかりで、近隣では噂になっていたでしょ。何人もの生徒を皇大[日本最高の国立大学]に送り込んだ先生が赴任してきたって。実際、授業は分かりやすくて、生徒一人一人の学力を向上させる内容だと思う」
「ああ、でもわりに偏差値低いままだよね、わたしみたく」暖乃が自虐ネタを披露して、一人で笑う。そして続けて「だから、クラブは勉強クラブなんだ、土屋君て。なにが面白くてそんなクラブに入るのか分からないけど。だって授業で勉強してるのに、クラブでも勉強するって、ショートしちゃうもん、わたしだったら」と、調子っぱずれな声を上げた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
漫才部っ!!
育九
青春
漫才部、それは私立木芽高校に存在しない部活である。
正しく言えば、存在はしているけど学校側から認められていない部活だ。
部員数は二名。
部長
超絶美少女系ぼっち、南郷楓
副部長
超絶美少年系ぼっち、北城多々良
これは、ちょっと元ヤンの入っている漫才部メンバーとその回りが織り成す日常を描いただけの物語。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる