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一年生の二学期
第三十九話 場違いな秀才
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十一月も終わりに近づいたある日、書道教室でのウィップスは、いつになく練習に励んでいた。魚子はゆっくりとした動きで、まだできないパワームーブへの導入部を繰り返し、暖乃は、鏡に向かってアイソレーションをしてはフリーズをきめる。少し離れたところで軽くトップロックを行うかおりは、スマホで自分を撮影しては、それを確認していた。それに対して、部屋の中央では、泥んだ様子の奈緒が、相も変わらずバウンズを繰り返す。
外の気温はだいぶ下がってきていて、乾いた木枯らしが吹きすさんでいたが、空調設備の整ったこの部屋は暖かく、とても過ごしやすい環境だ。とりわけ務が監視役の時は、とても和やかな時間が流れる。
エナジードリンクを飲み終えた魚子が、ズールスピンをしながら務に近づき膝を抱えると、少し照れの混じった不器用な笑みを浮かべて、上目遣いで見つめる。
「土屋君って、いつも机と椅子用意して本読んでるよね。なんか勉強してるみたい。こんな時間くらいは、少し遊んだら? もしよかったら、あたしがダンス教えてあげるよ」
「え? いいよ、僕、結構不器用で、あまり運動得意じゃないから」
それを聞いて、魚子は意外そうな顔をした。
「うそ。バレー上手いし、百メートルもマラソンもそこそこ速いじゃん。やってみればすぐできるようになると思うけど」
務は笑みを浮かべるばかりで返答せず、首を傾げる。
そこに暖乃が加わってきて言った。
「じゃあ、お喋りしようよ。わたしたち土屋君とは話す機会ないから、これを機にお友達になろうよ」
困った顔をした彼が答える。
「いや……僕あまり話さないほうだし、なに話していいか分からないや。女子と話すの結構苦手で。女子で仲いいのって杏奈と成瀬さんくらいだから」
「ふうん。頭いいしスポーツできるし、顔も悪くないのにもったいないなぁ」
頓狂な声で答える暖乃の横に、二つ椅子を持ってきたかおりが座ると、魚子も別の椅子に手を伸ばし、引き寄せて座る。
外の気温はだいぶ下がってきていて、乾いた木枯らしが吹きすさんでいたが、空調設備の整ったこの部屋は暖かく、とても過ごしやすい環境だ。とりわけ務が監視役の時は、とても和やかな時間が流れる。
エナジードリンクを飲み終えた魚子が、ズールスピンをしながら務に近づき膝を抱えると、少し照れの混じった不器用な笑みを浮かべて、上目遣いで見つめる。
「土屋君って、いつも机と椅子用意して本読んでるよね。なんか勉強してるみたい。こんな時間くらいは、少し遊んだら? もしよかったら、あたしがダンス教えてあげるよ」
「え? いいよ、僕、結構不器用で、あまり運動得意じゃないから」
それを聞いて、魚子は意外そうな顔をした。
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務は笑みを浮かべるばかりで返答せず、首を傾げる。
そこに暖乃が加わってきて言った。
「じゃあ、お喋りしようよ。わたしたち土屋君とは話す機会ないから、これを機にお友達になろうよ」
困った顔をした彼が答える。
「いや……僕あまり話さないほうだし、なに話していいか分からないや。女子と話すの結構苦手で。女子で仲いいのって杏奈と成瀬さんくらいだから」
「ふうん。頭いいしスポーツできるし、顔も悪くないのにもったいないなぁ」
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