116 / 410
一年生の二学期
第三十八話 スパルタ
しおりを挟む
同じ日の放課後、書道教室の中央でバウンスを繰り返す奈緒の周りには、ガス星雲の塊が四つできていた。一つは魚子で、スマホで動画を見ながら、映し出されたBボーイの動きを真似してフロアに足を這わせたり、仰向けになったり、うつ伏せになったりしては、画面を確認している。二つ目は暖乃。この子はダンスをせずに、鏡に向かっていろいろなポーズを決めていた。三つ目のかおりにいたっては、ダークグレーでフルジップのフーディを羽織った制服姿のまま着替えもせず、相変わらず窓際に椅子を用意して座り、ヘッドホンで音楽を聴きながらクラブステップを踏んで、ドラマーのように膝を叩いている。それをイライラした様子で見つめる四つ目は南。椅子に座る彼女は、大股を開いて腕を組んでいた。
時計を見ると午後四時四十八分。練習が始まってから一時間経つが、始まる前に奈緒と南がおしゃべりしたくらいで、魚子に注意されて以降は、今まで全くの無言だ。
床にいる彼女のスマホから流れる音楽はブレイクビーツで、最初の一曲目から現在に至るまで同じメロディーが相も変わらず繰り返されている。
さすがに飽きてきた様子を見せた南が、口を開いた。
「合わせたりしないの? これじゃあ一緒に踊ってもてんでバラバラな気がするけど」
魚子は一瞥もせず緘黙する。南は堅固な口調で「おい」と凄んだ。
片膝を立てて座った標的は、いやいやなのだという様子を隠さない顔で煩わしそうに答えた。
「学校のダンスは、なんかユニゾン大切にするけど、本来ストリートダンスは個性のぶつかり合いだからいいの。部活の大会だとBIGとかSMALLとか種目があるのは知ってる。でも、あたしらダンス部ができても所属しないから、そういうのには出ないし」
「確かに、なんかブレイクダンスって合わせてやるイメージないもんね。そもそも、くるくる回っているのなんて、合わせようないか。はじめから合わせるの想定してないっていうか、個人戦用だよね。ユニゾンないんだ」
「あるよ。ショーケースでルーティーン。それに複数人でバトルする場合もある。でもあたしらは一対一。タイマンで即興。創作はしない。それぞれ個性があるんだから、それ見せればいい。いろいろアクロバティックな振り付けで度肝抜いてくる人たちもいるけど、そんなの見せられてもね。はぁ? そんなのサーカスでやってくださいよって感じ。わたしたちはあくまでブレイクダンスで勝負するから。つーか、小沢はいつもここにいるかバイトしてるかだけどいいの? まさかなんにもやることないなんて言わないよね。そんなんで将来大丈夫? 成績だってよくないし、卒業後も底辺続くよ。ていうか、卒業すら出来なんじゃない?」
「あ?」南が威喝して、大きく足を踏み鳴らす。
時計を見ると午後四時四十八分。練習が始まってから一時間経つが、始まる前に奈緒と南がおしゃべりしたくらいで、魚子に注意されて以降は、今まで全くの無言だ。
床にいる彼女のスマホから流れる音楽はブレイクビーツで、最初の一曲目から現在に至るまで同じメロディーが相も変わらず繰り返されている。
さすがに飽きてきた様子を見せた南が、口を開いた。
「合わせたりしないの? これじゃあ一緒に踊ってもてんでバラバラな気がするけど」
魚子は一瞥もせず緘黙する。南は堅固な口調で「おい」と凄んだ。
片膝を立てて座った標的は、いやいやなのだという様子を隠さない顔で煩わしそうに答えた。
「学校のダンスは、なんかユニゾン大切にするけど、本来ストリートダンスは個性のぶつかり合いだからいいの。部活の大会だとBIGとかSMALLとか種目があるのは知ってる。でも、あたしらダンス部ができても所属しないから、そういうのには出ないし」
「確かに、なんかブレイクダンスって合わせてやるイメージないもんね。そもそも、くるくる回っているのなんて、合わせようないか。はじめから合わせるの想定してないっていうか、個人戦用だよね。ユニゾンないんだ」
「あるよ。ショーケースでルーティーン。それに複数人でバトルする場合もある。でもあたしらは一対一。タイマンで即興。創作はしない。それぞれ個性があるんだから、それ見せればいい。いろいろアクロバティックな振り付けで度肝抜いてくる人たちもいるけど、そんなの見せられてもね。はぁ? そんなのサーカスでやってくださいよって感じ。わたしたちはあくまでブレイクダンスで勝負するから。つーか、小沢はいつもここにいるかバイトしてるかだけどいいの? まさかなんにもやることないなんて言わないよね。そんなんで将来大丈夫? 成績だってよくないし、卒業後も底辺続くよ。ていうか、卒業すら出来なんじゃない?」
「あ?」南が威喝して、大きく足を踏み鳴らす。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
漫才部っ!!
育九
青春
漫才部、それは私立木芽高校に存在しない部活である。
正しく言えば、存在はしているけど学校側から認められていない部活だ。
部員数は二名。
部長
超絶美少女系ぼっち、南郷楓
副部長
超絶美少年系ぼっち、北城多々良
これは、ちょっと元ヤンの入っている漫才部メンバーとその回りが織り成す日常を描いただけの物語。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる