102 / 410
一年生の二学期
🍭
しおりを挟む
岡野先生は一息ついて、みんなを見渡してから語気を強める。
「よだれがなんだっていうんだ。唇が麻痺して半分動かないんだぞ、しょうがないだろう。もしお前らの中で、口を開けたまま下を向いてよだれが垂れないってやつがいたら、手を挙げてみろ。それともやるか? 全員今ここで」
無人の教室のようになった。
先生が笑う。
「誰か勇気あるやつ、前に出てやってもらっても構わんぞ。十分。十分出来たら、先生土下座して、逆立ちで校庭一周してやるよ」
誰も何も言わない。みんなの前にいる彼が続ける。
「長々と箴言めいた説教たれて悪かったな。話はもう終わりだ」
すると、春樹がすかさず手を上げて、素っ頓狂な声を放つ。
「せんせー、そんな罰ゲームされても、俺たちなんの得もありませーん」
みんなが吹き出す中、意表を突かれた先生が、おでこに豆を投げつけられたような顔をして、声の出所を見た。
「お前がそれ言う? ここは先生に味方するとこじゃない? だってさほら、成瀬かばったって聞いたし」
クラス中がポップコーンみたいに沸き上がった。
「先生、なんかおごって。地域交流会終わったら」
南がみんなを先導するように手のひらを何度も巻き上げて言うと、春樹が「たこ焼き」と付け加える。
瞬く間にたこ焼きコールがクラスを埋める。
「うぐぐ、しょうがねーな。一人一つだぞ」先生が観念して、土に埋められたやつみたいに唸った。
「「「やったー」」」
「一つって一舟じゃないからな。丸っこいの一つだからな」
「「「え~~~‼‼」」」
歓喜はポプバをひっくりしたようなブーイングへと変わる。
恩師と言われるまでの道のりは、果てしなく遠い。がんばれ! 岡野隆。
「よだれがなんだっていうんだ。唇が麻痺して半分動かないんだぞ、しょうがないだろう。もしお前らの中で、口を開けたまま下を向いてよだれが垂れないってやつがいたら、手を挙げてみろ。それともやるか? 全員今ここで」
無人の教室のようになった。
先生が笑う。
「誰か勇気あるやつ、前に出てやってもらっても構わんぞ。十分。十分出来たら、先生土下座して、逆立ちで校庭一周してやるよ」
誰も何も言わない。みんなの前にいる彼が続ける。
「長々と箴言めいた説教たれて悪かったな。話はもう終わりだ」
すると、春樹がすかさず手を上げて、素っ頓狂な声を放つ。
「せんせー、そんな罰ゲームされても、俺たちなんの得もありませーん」
みんなが吹き出す中、意表を突かれた先生が、おでこに豆を投げつけられたような顔をして、声の出所を見た。
「お前がそれ言う? ここは先生に味方するとこじゃない? だってさほら、成瀬かばったって聞いたし」
クラス中がポップコーンみたいに沸き上がった。
「先生、なんかおごって。地域交流会終わったら」
南がみんなを先導するように手のひらを何度も巻き上げて言うと、春樹が「たこ焼き」と付け加える。
瞬く間にたこ焼きコールがクラスを埋める。
「うぐぐ、しょうがねーな。一人一つだぞ」先生が観念して、土に埋められたやつみたいに唸った。
「「「やったー」」」
「一つって一舟じゃないからな。丸っこいの一つだからな」
「「「え~~~‼‼」」」
歓喜はポプバをひっくりしたようなブーイングへと変わる。
恩師と言われるまでの道のりは、果てしなく遠い。がんばれ! 岡野隆。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
世見津悟志の学園事件簿
こうづけのすけ
青春
高校二年生の世見津悟志が紡ぐ、怪奇なことがよく起こるこの学校と地域の伝承伝説に触れてゆく。個性豊かなクラスメイトと、土地を訪ねるごとに関りを持つ人々。世見津悟志が、青春と怪奇な世界とを行き来する学園青春サバイバルサスペンス。
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
漫才部っ!!
育九
青春
漫才部、それは私立木芽高校に存在しない部活である。
正しく言えば、存在はしているけど学校側から認められていない部活だ。
部員数は二名。
部長
超絶美少女系ぼっち、南郷楓
副部長
超絶美少年系ぼっち、北城多々良
これは、ちょっと元ヤンの入っている漫才部メンバーとその回りが織り成す日常を描いただけの物語。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる